2022年9月の日本酒を予習してきた
先日お邪魔したお店で、お酒を出すときに小ネタを補足するのが面白かった。日本酒は特にストーリーを一緒に味わうことで、より美味しくなる気がする。
この度、ご縁があって行きつけの和inさんで店員さんとしてお手伝いすることになった。皿洗いやビールの応援だけど、せっかく日本酒が自慢なので予習したことを書き記す。
実際に飲んだものはテイストノートを追記したい気概はあるけれど、舌にも語彙にも自信はない。
新政(秋田)
飲み屋さんの軒先には新政の四合瓶(空瓶)が置いてあるのに、いざ頼むと「今は品切れなんですぅ」言われるのは、日本酒あるあるだろう。プレミアムな日本酒ながら、多くの日本酒ファンを魅了する新政。今月はちゃんと5種類入っている。
新政酒蔵のキーワードとしては「秋田県産米」「生酛純米造り」「六号酵母」が挙げられる。また、お米の磨きっぷりに関わらず、特定名称は「純米酒」で統一されている。「大吟醸だから美味しいぞ!」とは異なった価値基準を打ち出している。
そんな新政の中にもいくつかシリーズがあり、「PRIVATE LAB」は製法、「No.6」はフレッシュさ、Colorsシリーズはお米にフォーカスを当てたイメージで捉えている。
「木桶」「生酛」などを見ると、アミノ酸が活躍したクセツヨを連想するけれど、先入観なく飲むと甘酸っぱくフルーティーで飲みやすい。「日本酒は苦手で…」と言う人でも美味しく飲めそう。
新政 Colors
今月のラインナップのうち、「新政 産土(アース)」「新政 水墨(アッシュ)」「新政 生成(エクリュ)」はColorsシリーズとなる。
ウイスキーで言うと、バランス感のとれたブレンドではなく、個性を味わうシングルモルトを選ぶようなものだろうか。知らんけど。ともかく、それぞれの違いはお米によって言い現わせられる。
産土(アース):原料は「陸羽132号」。宮沢賢治が作付けを推奨したお米。硬質な米で、冷蔵保管することで完成に近づく。
水墨(アッシュ):原料は「亀の尾」。東日本のお米の先祖。同じく、硬質な米。
生成(エクリュ):秋田生まれの酒米「酒こまち」。エントリーモデルらしく、比較的よく遭遇できるので定番と言えそう。
同じ「生成(エクリュ)」でも、普通のものとは別に「直汲み」もラインナップされている。タンクの中の一番ええとこ取りました!ということだろう。ぜひとも飲み比べたい。
新政 亜麻猫
新政の中でもラベルに動物さんが描かれているのは、革新的で大胆な手法で醸されたPRIVATE LABシリーズ。
そのうちの「亜麻猫」は、通常の清酒用麹に加えて、強い酸味を持つ焼酎用麹(白麹)を併用して醸されている。
去年あたりから、私の地元灘でも泉酒造が白麹で醸した仙介を売り出しているのを目にした。新政はこの挑戦を、かれこれ13世代前からやっていた。
本醸造 朝日鷹(山形)
高木酒造による「十四代」もまた日本酒ファンに愛されるプレミアム日本酒である。1990年代まで日本酒界隈が「端麗辛口」に振り切っていたのを、十四代の登場により「芳醇旨口」へとより戻した意味では、日本酒のトレンドを変えたと言っても過言ではない。
そんな高木酒造が地元である山形に向けて、日頃の晩酌のお酒として売り出しているのが「朝日鷹」である。新政で言うグリーンラベル、飛露喜に対する泉川みたいなところ。そういうお酒が飲めるのが興味深い。
本醸造と聞けばカップ酒を連想するところ、朝日鷹はフレッシュなのに吟醸感がある。十四代っぽい面影も感じられるコスパが良いお酒なのだろう。ただ、ネットの転売で高騰するのを見ると、なんだかな~と思う。
純米吟醸 飛露喜(福島)
廣木酒造本店の飛露喜もまた手に入りにくい日本酒で定評がある。その代名詞でもある「無ろ過生原酒」が、つぶれかけの蔵を一躍人気の蔵へと押し上げたのは、1990年代後半のこと。
現在「無ろ過生原酒」は一割程度ながら、火入れしたお酒であっても「フレッシュで瑞々しい味わい」を安定してつくるための努力は惜しまない。遠心分離で水分量を調節するなど手間がかかっている。このため生産量が限られるので、希少酒となるのだろう。
出戻った社長さんが「夏子の酒」で勉強したエピソードや、十四代に衝撃を受けて飛露喜も芳醇旨口に舵を切ったエピソードは興味深い。寫樂もまた飛露喜に衝撃を受けたとかで、脈々と繋がる系譜にロマンを感じる。
無ろ過純米生吟醸 射美 バレル(岐阜)
杉原酒造が「日本一小さな酒蔵」と謳っていることからも、「射美」が入手困難になりがちなのは納得。家族2人で酒を造っているとか。1タンクの仕込みが終わるまで次のタンクを仕込まないのだとか。
その中で今月ラインナップされているバレルは、無濾過生原酒の吟醸酒をワイン樽で熟成させたもの。見え隠れするウイスキーの香りと甘みと旨味が特長…だそうです。
純米 十勝(北海道)
日本酒のイメージがない北海道にある上川大雪酒造。酒造免許が新規発行できないこともあってか、製造中止していた三重県の酒造会社から北海道上川に移転したのが2016年と比較的新しい。
地域創成を掲げていて、原料も北海道産にこだわる。シンボルマークである五角形は、大雪山の「大」、雪の結晶、アイヌ文様のモチーフ、日本酒の五味などが込められている。
純米吟醸 信州亀齢(長野)
女性杜氏な岡崎酒造、漫画家の「おかざき真里」さんと姉妹。今も伝統的な手法を使い、芳醇高雅な酒を醸している。
その綺麗な味わいは、信州の水とお米によって生まれる。信州のお米としては「美山錦」「ひとごこち」が有名(兵庫産山田錦もある)で、大粒でありながら心白が大きい。
今月ラインナップされた「ひとごこち」は、磨くことで美山錦よりも淡麗で味に幅のある酒に仕上がるとか。爽やかな香り、軽快な口当たり、甘味酸味の調和が絶妙。
広島の亀齢に商標をおさえられたけれど、争わないどころか、交流あるのがグッとくる。
純米 緑川(新潟)
日本酒のトレンドとして、1990年代に登場した十四代や飛露喜が「芳醇旨口」に舵を切ったことを上に書いた。一方の「淡麗辛口」も負けることなく温故知新を続けている。そんな淡麗辛口といえば伝統的な新潟の味。
品評会では兵庫県の山田錦ばかりが活躍するのは、米どころの新潟にとっても不服に違いない。緑川が県内産の希少なお米「北陸12号」にこだわるのは、新潟としての意気込みを感じる。そこから産み出される味わいは。
単体でガツンとくるというよりは、さりげなくちゃんと美味しいお酒。料理に合わせるならば端麗辛口に合うお刺身や魚料理やら、塩味のある揚げ物なんかもウォッシュ効果ありそう。
豊盃 Koubo No.6/7/8
青森は三浦酒造の「豊盃」は、全国で唯一「豊盃米」で仕込んだお酒となっている。「プラズマクラスターはシャープだけ」みたいなものだろう。知らんけど。
杜氏さんが若そうで、柔軟に面白い挑戦をする。今月のチャレンジタンクもそんな一環に思えた。ラインナップされた3種類の違いは、それぞれ協会酵母の6~8に対応する。ソガペールの1~9を思い出す。豊盃の場合は、オリジナル酵母をつくる過程で試行錯誤したのだろう。
6号酵母:「No.6」の字面どおり、みんな大好き新政@秋田から採取された酵母。あの甘酸っぱさのイメージ。
7号酵母:真澄@長野から抽出。6号と系統は近く、香り高め。
8号酵母:あまり聞かないと思ったら、頒布中止されていた。ストロベリー系だとか。
純米 三連星(滋賀)
シャア(長野)やザク(三重)に並び、初代ガンダム好きに愛されがちな「三連星」の美冨久酒造によるお酒。他の蔵と違い、キャッチコピーに「見せてもらおうか、三連星の性能とやらを…」と書いているので、狙ってやってることが読み取れる。
名前の由来としては、何かと「3」に関係する。
純米大吟醸、純米吟醸、純米酒の3種類
生詰原酒(通年商品)、特別限定、季節のお酒の3タイプ
渡船六号(祖父)・山田錦(父)・吟吹雪(子)という滋賀の酒米3世代
純米吟醸 仙介おりがらみ(兵庫)
お店が神戸市灘区にあり、地元のお酒も置いている。気合を入れればランニングでイケる距離感ながら、見学や試飲などはやっていないため地元民も足を踏み入れたことはない。
山田錦を採用する酒蔵は全国にあれど、灘五郷の宮水と地元の山田錦を組み合わせて地産地消している。この説得力は、地元の老舗ならではないか。お味の方については引用。
「おりがらみ」とは?
もろみを絞る工程で、目の粗い布or網で濾すと「にごり酒」になり、完全にろ過すると雑味の無い透明なお酒になる。その間くらいの細かさを持つ布or網で濾して、「おり」と呼ばれる粒子を残したままにするのが「おりがらみ」。
瓶の中で滑らかに踊る「おり」を見ながら飲むのも一興やね。
Sleeping Ohyama 特別純米酒 大山(山形)
えらくかわいいラベルには「Sleeping Ohyama」とある。裏ラベルまで読むと、寝かせたお酒にちなんでいることが分かる。
普段の大山の味が思い出せないけれど、先入観なく飲んでみて、古酒っぽさを意識させないライトな味わい。
純米酒 紀伊国屋文左衛門 ひやおろし(和歌山)
中野BCがつくった「紀伊国屋文左衛門」の由来は、江戸時代にみかんを江戸まで船出して富を得た豪商のおっちゃんから。
しっかり旨味が感じられ、しつこすぎないところでキレる。コッテリした秋の味覚と合わせても負けなさそう。冷やしてどうぞ。
「ひやおろし」とは?
秋頃になるとチラホラ目にするのが「ひやおろし」。春先にできた新酒をいったん火入れして、冷蔵貯蔵のまま秋まで寝かせ、冷えたまま(2度目の火入をせず)卸したもの。冷で卸すので「ひやおろし」。
まろやかに熟成されて味が整うのだとか。各社の説明で、コレデモカと言うくらい秋の味覚を喰らわせようとするので、昔からペアリングされてきたのだろう。
寒北斗 辛口純米酒 shi-bi-en(福岡)
寒北斗は「全国に誇れる福岡の銘酒を」という酒販店からの熱望により1984年に生まれたお酒。北斗星を信仰する地元の北斗宮にちなんで、地元を愛し原点を大切にするという想いが込められている。
2011年には「玉の井酒造」から「北斗宮酒造」に社名改称するくらい重要な製品になった。さらに新たなチャレンジして造りはじめた季節酒「shi-bi-en」は、若手蔵人の育成という側面も持つ。
存在感あるのはラベルのド真ん中にキュピーンしている北極星だけど、その左下で周辺参加している北斗七星があるからこそ「shi-bi-en」だった。
もちろん今月のラインナップは秋だけど、商品紹介ページで春夏秋冬と目で追うと、ラベルの色が変わるだけではなく、北斗七星の位置が1→4象限へと回転して実際の星座とリンクしている。これに気付いて鳥肌立ったので、このお酒の紹介が長くなっている。
お味については、以下を見るからに「ひやおろし」っぽい。
西條鶴 純米吟醸 広島流超辛口(広島)
東広島の西條も酒処で、10月の酒まつりは「ヤバい」という噂しか聞かない。そんな西條にありそうな西條鶴醸造株式会社の「西條鶴」のお酒。
日本酒度とは?
スペック「日本酒度+12」から紐解いてみる。日本酒度とは、日本酒に浮秤を浮かべて測定する比重に関する指標。4℃の水と同じ比重を持つ15℃の日本酒を、日本酒度0とする。増減については直感と反対で、比重が低くなると日本酒度は+になる。ややこしい。
水面が浮秤のプラス側 ⇒ 浮秤が重く日本酒は軽い ⇒ 日本酒の比重は低い ⇒ 水より軽いアルコール(比重:0.8)が多かったり、重い糖分が少なかったり ⇒ つまり辛口っぽいと推測できる。
甘口/辛口が言えれば便利な一方で、そう単純でもない。日本酒の中に辛味の成分なんて入っていないので、辛口と言っても実際は「甘みが少ない」でしかない。また、他の成分によって感じ方も変われば、個人差もある。
日本酒は糖分やアルコール分の他に、有機酸類(○○酸)が入っていて、これも甘口/辛口の感じ方を左右する。こういった酸の量を表す指標が「酸度」で、西條鶴は「酸度 2.4」と高め。一般論としては、酸度が高いと甘味を打ち消すとか。
水芭蕉 純米吟醸 ひやおろし(群馬)
あまり日本酒のイメージがない群馬の永井酒造による「水芭蕉」。お米は兵庫県三木市の農家と専属契約した山田錦を選びつつ、アイデンティティとなるのは群馬県川場村の水と技術のよう。
↑というのは商品群「水芭蕉」の説明。ひやおろしのお味についてはSNS投稿が参考になりそう。
「日本酒度: -2」「酸度: 1.5」から、ほんのり甘口ながら旨味も感じられる。温度をあげると、旨味が開いて別の楽しみ方もできるということか。
気が向いたら続きを書く
花邑 雄町(秋田)
花邑 陸羽田(秋田)
羽根屋 富山限定(富山)
満寿泉(富山)
不動ひやおろし(千葉)
燦爛(栃木)
林(富山)
櫛羅(奈良)