【読書感想文】螢川・泥の川:宮本輝著 情景が浮かぶ完成された文章
お久しぶりでございます。
宮本輝さんの「螢川・泥の川」を拝読しまして。
これが感想を書かずにいられようかと。
「螢川」「泥の川」それぞれ独立した短編が一冊の文庫本になっています。
螢川は芥川賞をとった作品です。
その当時の選考者の方々の批評を見ていると興味深いのですが、私が個人で勝手に思ったことは、なんと洗練されて美しく無駄がない、完成された文章なのだろうということでした。
この間読んだ京極夏彦さんの本の10分の1くらいの厚さしかないんですよ。
ただその分、とんでもなく全ての言葉や文章が「選ばれて残ってる」ように私は感じました。
※決して京極夏彦さんをディスってるわけではありません。めっちゃ好きです。
今までも芥川賞受領作品は数多く読ませていただいたのですが、正直あんま何も考えずに読んでたんですけど(おい)、やっぱ賞を受賞する作品って文章の洗練のされ方がとんでもない。
多分それは必要最低限の条件なので、さらにそこから人物描写が云々といった批評がなされるのだと思うのですが、
素人目からすると、なんかもう出来上がりすぎて文章がとにかく美しくて、怖さすら感じるという。
美しすぎるものってゾッとする瞬間あるじゃないですか。
それに近いです。
ある程度本の内容に触れていますので未読の方はここから先ご注意ください。
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私はジャンル問わずなんでも本は読むんですが、どうしても読み進まない本というのがたまにあります。(いや結構あるかも。意地で読むけども)
そうゆう本は得てして、「今どうゆう状況なのか」「どんな風景なのか」とかなど、情景が想像しにくいものが多いです。
いや私の想像力や読解力が低いのもあるんですけども、今回螢川を読んでた時感動したのが、「特に風景を想像しようとしてないのに、勝手に頭に風景や人物浮かんでくる」ことだったんです。
-竜夫もさようならと言ってお辞儀をした。学生帽が落ちて転がった。
男の子がさよならっていってお辞儀をして、被ってた帽子が落ちて転がるわけじゃないですか。
つまり帽子が転がるくらい、思いっきり頭を下げてるわけじゃないですか。
でも「めいいっぱい頭を下げたので、帽子が頭から落ちた。」的な説明口調では書かない。
とても自然で、勝手に頭の中にそれが流れ込んでくるのが本当にすごい。
余白が心地よく美しい文章だなと思いました。
(もしかしたらこの文章で伝えたかった意図は他にもあるのかもですが)
なんか、そうゆうのだらけで、純文学の楽しみ方ってこうゆうことだよなと個人的には思います。
なんか、かっけえんですよ!純文学は!作者さんのこだわりがすげえんですよ!!
多分、とんでもなく推敲してとんでもなく書き直して、こうじゃないとダメな文章なんです。完璧に出来上がってて、順番が違うだけでも絶対ダメなんです。
私が思う作者の意図が正解なのかそうじゃないのかとかは本人に聞かないとわからんので知らんですけど、それを考えるのがめっちゃ楽しい。
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個人的に冒頭から痺れたのは、
「昭和三十七年三月の末である」
この文章が置かれてるタイミングです。
最初は「雪」という題名の章から始まるんですが、普通の本だったら上記の一節から始まりそうじゃないですか。
でも違うんですよ。
北越の日本海側の、これから春に向かうとはいえまだまだ鬱屈とした雪景色を数行書いた後に、この一節がくる。
くー!!!かっけー!
絶対これはこの場所じゃないとダメなんだよなって場所にあるんですよ!!!!
改めて、文章の奥深さに触れた一冊でした。
文章って本当に、言葉選びもそうですけど順番によってめちゃくちゃ印象が変わるので、それら全て含めてものすごい緻密に、こだわりにこだわり抜いてこの文章ができたのではないかと思い、なんかもう何十回も読み直したい。
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宮本さんの本はこれでまだ2冊目なのですが(錦繍を拝読しました)、泥の川、螢川、錦繍いずれにおいても宮本さんの命に対する考え方がすごく反映されているように思います。
特に泥の川、螢川においては突然身近な人の命が、突然消えてしまう描写が共通してあります。
奪われる、というよりある日突然なんの前触れもなく、ふつり、と消えるような。
生物としての生命、一方で「人」として「生活」をしていくということ。
それを常に書かれているような気がしております。
生物として私たちはある日突然生を受け、そして当然ある日突然死んでいきます。それは誰が決めることもできないものです。
一方で、たとえそのように決まっていたとしても人は今日を生きて、今日のために生活を営みます。生きるために、生きていきます。
そういった生々しい生活という面、一方で突然儚く消える命というものの生み出す破滅的な美しさ、そのようなものを宮本さんの小説から感じます。
螢川の最後の方の蛍の描写は圧巻。
それではまた〜