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【読書感想文】 伊坂幸太郎 ペッパーズ・ゴースト

こんちにちは!

逆ソクラテス、クジラアタマの王様、からのペッパーズ・ゴースト!

飛沫感染によって、相手のちょっと先の未来の「先行上映」を見ることができる不思議な力をもった中学生教諭が主人公のお話。

もう設定だけでワクワクしちゃう。この不思議な世界を成り立たせることができるのは伊坂さんしかいない。

明日を観て世界に立ち向かえ!という帯がついてますが、実際に観るとは!

⚠️以下、物語の重要な内容に触れておりますので未読の方はご注意ください!


中学教師の檀先生は、他人の明日が観える能力を父から受け継いでいた。
父が「先行上映」と名付けたその能力は飛沫感染がトリガーで発動する。
先行上映が見れたとしても、どうにもできないことはどうにもできない。
やるせない思いに蓋をしてやり過ごす日々。
ある日、先行上映によって新幹線事故の可能性を知った檀先生は、どうにかこうにか理由をつけて生徒を事故から救う。
その生徒の父親である里見八賢は内閣情報調査室の役人であった。疑いの目を向けられやむを得ず能力について里見に説明する。
それからしばらくして八賢が姿を消し、檀先生は「サークル」がもくろむテロ事件に巻き込まれていく。


どうにもならないことはどうにもならない。

病床の檀先生の父親が、先行上映の能力について息子に打ち明けるシーンで、アドバイスとして送ったもの。忘れることを覚えておけ、と。
わかっていだけどどうにもできなかったというのは辛い。

実際に、能力が開花してからの檀先生はその意味を知ることになる。
飛沫感染である以上、知らない誰かの先行上映を見る確率も高く、悲惨な未来が見えたとしても何もできない。
仕方ないとは思いながらも、その澱は心に溜まっていく。

だから、檀先生は物語の中盤で立ち上がる。
どうにもならないかもしれなくても、立ち向かう。

ペッパーズ・ゴーストの前にクジラアタマの王様を読んだのですが、この辺りの伊坂さんの本は、「現実と向き合え」ということが書かれていることが多いように思います。

クジラアタマの王様は夢で魔物を倒すと現実でも状況を打破できる、という夢と現実が繋がった不思議なお話なのですが、
今目の前の敵をどうにかしてくれるのは夢の中の自分じゃない。
今ここにいる自分が立ち向かわなければならない、というシーンがあります。

物語の中では命に関わるような話なので、現実で同じ場面で立ち向かえ!と言われたらできるかというのはあれですが、それはあくまでも物語の主人公の置かれた状況であって、これらの本は私たちの背中をそっとおしてくれます。伊坂さんの本って命に関わる描写あるのに軽やかで不思議。

現実から逃げずに今を見て。今あるのは、今この目の前にあるもの。
どうにもならないことはどうにもならないけれど、できることはやれるかもしれない。
ちょっとの勇気で、今を見すえて、立ち向かってみないか?

そう語りかけられているような気がしました。

どうにもできないことはどうにもできないけど、でもその時に自分なりにできることを、夢の世界や妄想に逃げ込むのではなく、今をみて、できることを。やってみない?

そんなメッセージをかんじた。

決して、どんなことにも立ち向かえ!と言っているのではない。
自分の心が逃げないほうがいい、と叫んでいる時には耳を傾けて、ちょっとがんばってみない?
そういってくれてるような気がした。

**

そういえば物語の中ではニーチェのツァラトゥストラの話がたくさんでてきます。
随所に引用というか伊坂さん節での解釈が出てきます。ニーチェには全く触れてきてない人間ですが、読みたくなってしまった。

物語の中に出てくる謎の二人組の一人のアメショー(猫のアメリカンショートヘアからの呼称)がいいます。

ー来世とか死後の世界に期待するんじゃなくて、この今の人生をどうにかしろ、って言いたかっただけじゃないのかな。そのニーチェさんは。

つらいこと、苦しいことがあると現実から目を背けたくなる。
でも今は目の前にある。
私が生きなければならない今は、今ここにしかない。

たとえこの人生が決まっていたとしても、何度も同じような人生が繰り返させるとしても、今を生きることしか私たちにはできない。

**

わたしは人生でたくさんのことから逃げてきた。
けれど、何度か「これは逃げてはいけない気がする」と思い、立ち向かったことがある。
敵は他人だったこともあるし、自分だったこともある。
自分自身が敵であったことの方が多かったかもしれない。

その時の記憶は今もすべて鮮明に脳裏に焼き付いていて、逃げなくて良かったと思うことばかりだ。
立ち向かって失敗したこともあるけれど、逃げなかったという記憶が今の私を支えてくれている。

伊坂さんの本を読むと、自分の少しの勇気が間違っていなかったと自分を少し認めてあげることができる。


それではまた〜

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