電車と空っぽの中
お願いだから、早く最寄りの駅まで運んでほしい。走って帰るから。
今日は、たくさん泣きたい気分なんです。
だから、はやく。
久々に会ったその人は、不思議といつも通りだった。わたしは弱いところを見せまいと、どうにか笑っていた。
本当はもっと声が聴きたくて、抱きしめてほしくて。
何をするでもなく触れ合う時間が、ただただ愛おしかった。
髪を解いて、触れてくれたのはなぜだろう。
どんな気持ちでいたのだろう。
わたしに黙って夜を共にしたあの子にも、同じように触れたのだろうか。
悔しいし、馬鹿だなと思うけれど。
一度は心を許した人のことを、憎み続けることはできなかった。
その人が眠った後、部屋に飾られた思い出の写真たちを眺めて涙した。
帰る少し前、化粧をするために借りた手洗い場で声を殺して泣いた。壁にはお揃いのネックレスが掛かっていた。
「わたしの撮った写真、飾ってくれてて嬉しいな。」
くらい言えばよかったのだけど、できなかった。
目を見てそんな話をしようものなら、気持ちが溢れてしまいそうだった。
心がこんなにも弱っているなんて、思いもよらなかった。
一人になってからというもの(元々人はひとりなのにこう言うのは違和感があるけれど)、好奇心に身を任せて、色んなところへ出向いたこともあった。
楽しい感覚が得られるのは、ほんの一瞬にすぎなかった。人に心を開くということを、とうの昔に忘れてしまった気がする。
どこか大事な部分が空っぽのまま、空気人形みたいにふらふらと動いていた。
頭の中の情報だけが、どうしようもなく、ぶくぶくと増えていった。
寂しがり屋は、わたしの方だった。
もう何度聴いたか分からないくらいだけれど、“Title of mine”という曲がある。
ふと気づかせてくれる弱さと、やさしさとあたたかさ。その人間臭さに、どことなく救われる心地がする。
どこまで伝えていいのだろう。
全部伝えたら、全部崩れてしまうのかな。
それでも何かを変えたくて、でもわからなくて。
未だ、空っぽの中は空っぽのままだ。
電車は、早くも遅くもならなかった。
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