漢方茶のきほん①食材の五性・五味・五色
これまで、漢方の考え方や歴史といった漢方とは何かについてや、私の考えるこれからの「新しい漢方」についてのお話などをしてきました。
これからは、その漢方の考え方を使ってどうすれば健康な状態を保つことができるのか、漢方で考える「心と体を整える方法」についてお話していきたいと思います。ついに、実践編です!
「薬膳」とは?
「漢方」といっても「漢方薬」のことだけではありません。
漢方の中でもとりわけ「薬膳」でもある〝食養生〟がもっとも大事とされていて、「一に養生、二に薬」と言われるほど、〝何をどう食べるのか〟が重要とされます。
「薬膳」もよく聞く言葉だとは思いますが、そもそも「薬膳」という言葉は、1980年(昭和55年)頃に中国四川省にある漢方のお店が「薬膳レストラン」を開いたことで、そこから「薬膳」というものが世界に知られるようになりました。
私も1980年生まれなので、私の世代はずっと「松坂世代」と言われてきたのですが、薬膳とも同い年だったということなので、「薬膳世代」と言ってもいいのかもしれません。そういうことにしておきましょう。
薬膳とは、漢方の考え方を使って、食べる人の体質や季節に合わせて、食材や生薬などを組み合わせて作られた料理のことを言います。
といっても特別な食材を使うわけではなく、いつもの食材でかんたんに作ることができます。
もともとは「薬」も「食材」も同じ「食べもの」で、区別はありませんでした。その食材が体にどんな影響を与えるのか、またどんな時にどう食べればいいのかといったことを、昔の人は生活の中で経験し学びながら分類してきたのです。
例えば、私たちが日常的に食べている〝しょうが〟は、体を温める「生姜(ショウキョウ)」だったり、〝やまいも〟は、気を補う「山薬(サンヤク)」というように、漢方薬にも使われる生薬でもあったりします。
では、実際にどういった食事をすればいいのでしょうか。
漢方の難しい理論や知識を覚えなくても大丈夫な方法があります。
(もちろんこれまでお話してきた漢方の理論も知っておくと、より分かりやすいと思いますが…)
健康を保つのに大切なことは、自然のものをなるべく季節に合わせて食べて、自然とのバランスを取っていくことです。
そのためには、食材それぞれの「特性」を知っておくと、どんな時にもそれを生かして、体のバランスを整えていくことができます。
「五性・五味・五色」でバランスを整える
薬膳では、食材の特性である「五性・五味・五色」をうまく組み合わせながら、自分の体調や体質に合った食材を選んでいきます。
これは、漢方茶のブレンドにおいても同じです。
カンポースタンドのカンポー茶も、この考え方を使って10種類のブレンドがあります。
「漢方茶」とは、体質に合わせてベースのお茶を選び、そこにふだんの食材を組み合わせてブレンドした健康茶のことです。
かんたんに自分で作って飲むことができますし、この「漢方茶のきほん」を知っておくと薬膳にも応用することもできるので、気軽に漢方を知ってもらうには、まずは漢方茶から試してみていただけるといいのではないかなと思っています。
食材の特性「五性」
食材の「五性」とは、体を温めたり冷やしたりする5つの性質のことです。
体を強く温めるものを、「熱性」
体を温めるものを、「温性」
温めも冷やしもしないものを、「平性」
体を冷やすものを、「涼性」
体を強く冷やすものを、「寒性」
とそれぞれ言います。
ふだんは平性の食事を基本としながら、体の状態に応じて、寒涼性または温熱性のものを増やしたりします。
漢方茶もこれを元に、まずベースのお茶を選びます。
例えば、夏の暑い時には、体を冷ます麦茶を飲んだり、冬の寒い時には、体を温める紅茶を飲んだりすることもあると思いますが、
漢方茶でも、イライラや頭痛といった「熱」症状には緑茶を使ったり、冷えやむくみといった「寒」症状には黒糖やしょうがを使ったりというように、体の状態に合わせて、ベースのお茶や食材を選んでいきます。
食材の特性「五味」
食材の「五味」とは、体の働きを助ける5つの味のことです。
「酸味」は、引きしめる働き
「苦味」は、熱を取りのぞく働き
「甘味」は、胃腸を助ける働き
「辛味」は、血流を良くする働き
「塩味」は、ゆるめる働き
があります。
「塩味」は「鹹味(かんみ)」と言って「塩辛い味」のことを指しますが、ここでは分かりやすく「塩味」ということにしておきます。単に「塩」のことではなくて、魚介類や海藻、貝類といったミネラルを多く含んだ塩っぱい〝海のもの〟といったイメージです。
この「五味」は、それぞれ「五臓(肝・心・脾・肺・腎)」に対応して、その働きを助けます。
例えば、レモンなどの「酸味」は、筋肉や内臓をキュッと引きしめて、汗や尿など出すぎるものを抑えたりして、自律神経の「肝」の働きを助けます。
また、ねぎなどの「辛味」は、体温と血流を上げて発汗させるので、体に入り込んでくる悪いもの(邪気)を追い払って発散させたりして、呼吸器系の「肺」の働きを助けます。
食材の特性「五色」
食材の「五色」とは、体に必要なものを補う5つの色のことです。
「緑色」は、気を巡らせる働き
「赤色」は、血を補う働き
「黄色」は、気を補う働き
「白色」は、潤いを補う働き
「黒色」は、精を補う働き
があります。
「精」とは、「腎」の中にある精気のことで、「先天の気」と「後天の気」があります。
「先天の気」とは、生まれながらに持っている両親から受け継いだエネルギーのことで、「後天の気」とは、飲食物などから得られるエネルギーのことを言います。
「先天の気」はあとから補うことができないのですが、「後天の気」は「黒色」などの「腎」に良い食材を摂ることで補うことができます。
黒ごまや昆布、わかめといった黒い食材がアンチエイジングに良いというのも、そういった意味から来ています。
また、〝色〟には心理的にもいろいろな効果があると言われたりしますが、薬膳ではその食材を食べることで、心身にそれぞれ影響や効果があると考えられているというのは、漢方の面白いところだなと思います。
最近では、色と栄養の関係についても研究が進んでいるようで、野菜が持つ〝色〟の元になっているポリフェノールといった機能性成分である〝フィトケミカル〟も注目されるようになってきました。
フィトケミカルとは、炭水化物、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラルといった「五大栄養素」に、「第六の栄養素」と言われる食物繊維に加えて、〝第七の栄養素〟とも呼ばれたりします。
強い抗酸化作用を持っていて、いつまでも若々しく健康でいたい現代の私たちにはとても魅力的な成分で、パワーフードとも言われたりしますが、そのパワーの源こそ、〝色〟の持つ力なのではないでしょうか。
そういった働きについても、これからさらに解明されるようになれば、漢方や薬膳ももっと分かりやすく、さらに受け入れてもらいやすいものになるんじゃないかなと思います。
今回は、心と体のバランスを整えるために必要な「五性・五味・五色」のお話をしました。
次回は、もう少し詳しく「食材の五行と栄養素」について、お話したいと思います。それでは次回もお楽しみに。ごきげんよう。