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Vancouverの書店レポ vol.2/この店にボスはいない。40年以上ボランティアと寄付で運営する”アンチ”精神溢れるお店

この店にはボスはいない。全員が平等なんだよ

 指定された取材日は、祝日の真っ昼間だった。3連休の最終日、普通じゃない。他の書店の取材は開店前、もしくは平日早めの時間が多かった。なぜなら仕事に支障をきたす可能性があるから。だけど、この独特のセンスを持った書店だったらまああり得るか、と思う。1976年以来、45年近くボランティアと寄付によって運営されてきた書店『SPARTACUS BOOKS』だ。
振り返れば、実際その日話をしてくれたIvanhoeから、buisinessという言葉は一度も聞くことはなかった。

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「スタッフは、正直今何人いるかわからないんだ。シフト制で、とくにこのパンデミックの間は、ボランティアを志願する人が増えているから」。
なるほど、普通の会社では考えられない経営体制。ふと、店内の本棚に乱暴にかけられたポスターに目が止まった。「NO BOSSES, NO STAFFS」。「この店にはボスはいない。全員が平等なんだよ」とIvanhoeは言う。そんなことが可能なんだろうか。

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「各セクションの担当者が責任を持って、知恵を絞ってやっているよ。取り扱っているのは新刊と中古で、新刊は全て各セクション担当が選んでる。モノによっては、車でアメリカまで買いに行ったりもしてた。中古本は全て寄付だね」
 セクションごとに担当がバラバラなら、店の雰囲気もどこかバラバラになりそうな気がするが、まるでひとりの人間が本を仕入れてレイアウトしていると思わせるほど”ひとつ”の世界観をキープしている。

「反人種差別、反性差別、反資本主義etc… この書店が昔から掲げているビジョンを共有できる人たちが、自然と集まっているからだろうね。もちろん、週1回ミーティングをして、各セクションごとの報告はするし、たまに『なんでこの本仕入れたんだっけ?』と言い合うこともあるけど、 ボランティア同士でzineを作ったり、友達になる場にもなっているよ」

 Ivanhoeは現在40歳。本業の仕事のかたわら、ボランティアを初めて5年が経つという古株だ。生粋のアクティビストでもあり、彼がまだ20代の頃、アメリカのネブラスカ州のリンカーンに住んでいたときに使っていたdemo flag(彼の自作)が、店内に飾られていた。

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「ボランティアの面々は皆だいたい平均して1~2年はいるかな」この日レジにいた女性も、ボランティアに参加して1年が過ぎたとのことだった。非営利団体なのでそこまで利益を追わなくて良いことは、この書店に漂う自由な雰囲気の大きな理由の一つだろう。そして、店内に飾られた様々な”戦利品”からもうかがい知れる通り、おそらく45年間脈々と受け継がれてきた世の中に対する”Anti”の精神が、『Spartacus Books』の”人格”に大きく影響している。 

⑦アンチA

⑦アンチB

⑦アンチC

『Books to Prisoners!』 Prisonのカテゴリーには最近力を入れてる

「例えば他のお店はそんなにケアしてないと思うけど、うちで力を入れているカテゴリーのひとつがこのPrisonだね。大きな社会問題にもなっているけど、警察暴力と人種差別の実態に関連した書籍は多く取りえているよ」
 カナダの刑務所は、一時期黒人や先住民の人々の入所が増え、そこに潜む差別問題や、政府からの受刑者への教育サポートの予算が少ないことなど、社会復帰に結びつきづらいシステムが問題になったこともある。
「そこのダンボール、『Books to Prisoners!』って貼ってあるだろ? 刑務所に届ける本のドネイションを募っているんだ」
 各セクション担当のフットワークは軽く、様々な団体やコミュニティとイベントをしたり、このダンボールのように小さな取り組みを継続して行っているのだそう。

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  モットーは「とりあえずやってみる」。その姿勢は、アグレッシブなテーマのZineやニッチな雑誌、そして”Anti”魂にあふれたコミックなどの豊富なセレクションからも垣間見える。
「あとは子ども向けの本にも力を入れているんだ。一般的な絵本から、いろいろな人種が出てくる物語や、先住民の話、性教育にまつわるものまで、幅広く置いてるよ」

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言葉の侵略は由々しき問題

北米にはさまざまな先住民がいる。その子どもたちに、代々伝わるローカルの言語を話させない、徹底して英語だけで教育するという”言葉の侵略”がかつて、いや、今も行われている。「由々しき問題だよね」とIvanhoeは言う。

「日本のアイヌの本を読んだことがあるけど、似ているかもしれないね」
 ユネスコのデータ(2020年9月現在)によると、アイヌ語を話せる人は7人。世界には約6000の言語があり、そのうちの半分の言語は口承で記録されていないため、21世紀の間に消えると言われている。それは、2週間に1つの言語が世界から消滅しているペースだそう。
「白人による先住民へのジェノサイドは現実に起きている。ここは書店で小さな場所だけど、そんな先住民の人たちが生きやすい場所を作る手助けを、これからもしていきたいと思っている。自分たちのルーツだし、それを学ぶことは当たり前に大切だからね」

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 そうそう、最近自分が初めてみたんだよ、と、最後にDIY & craftsコーナーへ案内してくれた。
「このパンデミックの状況で、みんな興味あるかと思って。ダメだったらやめればいい、そんな感じで小さいことをどんどん試してみてるんだ」
buisinessという言葉は聞かなかったけど、collective(みんなで)という言葉をよく口にした。ここではチームワークというニュアンスに近いかもしれない。一人一人が自信と責任を持って取り組んでいる。

 最後に、Ivanhoeにポートレートを撮らせてほしいと頼んだ。何枚か撮影した後に、「ごめん、サングラス外してもらうことできる?」と聞いたら、「あ、そっか。サングラスしていたのを忘れてたよ」とIvanhoe。やっぱりここは、普通じゃない。

⑩ポートレート グラサンなし

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