Vancouverの書店レポvol.4/”ブックトラック”と”店舗”で最高の接客を味わえる下町の本屋さん
他の本屋と違うものを目指そうとも思ってないわ
ひと目惚れをした。ホームページで見た赤いBOOK TRUCK。こんなトラックを世界中あてもなく走らせながら、自分が好きにセレクトした本を売り歩けたらーー。と、妄想は膨らむばかり。
「いらっしゃい、何かあればいつでも言ってね」
オーナーのHiralyは笑顔で老若男女のお客さんに必ずそう声をかけていた。遠いところからもよく通る、大きな声で。
「いやいや、こんなたくさんの素晴らしい本に囲まれて、言うことなんて何もないよ」
初老の男性客が、粋な返事を返してくる。
「うちは普通の”街の本屋さん”だから、ご近所さんがよく来てくれるし、特別に他の本屋と違うものを目指そうとも思ってないわ。だって大変だもん。あ、ちょっとごめん」
電話が取材中に何度か鳴った。そのうちのひとつは、Hiralyの笑い声が店内に響き渡るほど話が盛り上がっていた。「馴染みのお客さんなのかな」と思ってそれとなく聞いていると、最後に「じゃあまずラストネームから教えて」と。
どうやら初めてのお客さんとの会話だったようだ。なんともこの店らしい。
このやり方だとお客さんと繋がれないと気づいた
「ローカルの人たちとのつながりは本当に大切よ。書店同士もそう。例えばMassy Books とか、Paper Hound とは、良い関係を築いて、お互い支え合ってるの」
場所はダウンタウンからEast Hasting streeetを10分ほど走ったあたり。さながら”下町の肝っ玉母さん”の雰囲気漂うHiralyが切り盛りする『IRON DOG BOOKS』は、年季の入ったスリフトショップ、雑貨屋、床屋(美容院とは言い難い)、八百屋、地元の人が集う賑やかなカフェなど、下町の商店街を思わせるエリアの一角にある。
彼女にまず最初に聞きたかったこと。どうしてBOOK TRUCKを始めたんですか?
「2017年にバンクーバーにパートナーと引っ越して来て、家賃の高さにまあ驚いたわ。で、じゃあまず店舗を持つのではなく、移動型でやってみようかってなったの。でも2回冬を経験した頃にね、このやり方だとお客さんと繋がれない、って気づいて」
冬のバンクーバー、別名”レインクーバー”。雨の日の多さが客足に影響するだけでなく、そもそも移動型だと場所も定まらない、さらに路上で本を売るためには特別なライセンスが必要で、許可取りも厳しく、営業日数も自然と少なくなっていった。
「BOOKTRUCKは今裏に停めてるよ、コロナ中だからちょっと中は見せられないんだ、ごめんね」
冒頭に記した妄想をHiralyに伝えてみたものの、現実はなかなか厳しいようだ。それでも、きっと自分と同じ妄想を抱えて(かどうかはわからないけど)、BOOK TRUCKを走らせている同志が世界のどこかにいるはず。「この日本の@BOOK_TRUCK知ってる? スーパーキュートでしょ、インスタでフォローし合ってるの」
やはり。しかも日本。今度帰国した時に話を聞きに行ってみよう。
ひとりひとりとの会話からニーズを引き出す
では、どうして実店舗を始めることになったのだろう。
「今のこの場所は家賃が安くてね。実店舗を2019年にスタートしたの。基本私がすべて選書してる。小さい店だからそれを共有しないといけないでしょ、他のスタッフにもよく”私の頭をインストールして”と言ってるのよ」
充実しているカテゴリーのひとつは”Indigenous people(先住民族)”。パートナーがIndigenous peopleかつ共同経営者であることも大きい。もうひとつはSF。理由は”好きだから”。他にも、人種差別やジェンダーに関する本が人気だが、「面白いのが、パンデミック以降お客さんの読書傾向がものすごい広がってきている」のだそう。
しかし、これだけの本をひとりで選書するのは並大抵のことではない。やっぱり本が好きだったんですか?
「良い質問ね。私、そもそも前の仕事が大嫌いだったのよ。政府関係の仕事だったんだけどね。辞めてやろうって。で、私は一体何が好きだったんだっけ?ってぼーっと考えながら、コーヒを飲みながら本を読んでた。それが今の仕事よ!」
「差別化は意識していない」と言いつつも、「他のお店とはレベルの違う接客を心がけて、会話からニーズを引き出す。お客さんからのひとつひとつのオーダーに応える」その積み重ねを大切にしていきたい、とHiralyは言う。「e-bookで読む人が増えているのは確か。でも、何かの調査で言ってたわ、paperbookが今トレンドなんだって」
お客様は神様ではなくご近所さん。接客ではなく立ち話。下町文化は、ここバンクーバーの片隅でも確かに息づいている。
最後におすすめしてくれた本「BLAIDING SWEETGRASS」を1冊購入し、お礼を述べて扉を開けて外へ出ようとすると、離れたレジから彼女の大きな鼻歌が聞こえて来た。
なんともこの店らしい。
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💡SHOP DATA
IRON DOG BOOKS
2671 East Hastings, Vancouver, BC
https://irondogbooks.com/
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