土曜ドラマ 心の傷を癒すということ (NHK)
放送年度:2019年度
https://www.nhk.jp/p/ts/V3J6VN6JQX/list/
阪神・淡路大震災発生時、自ら被災しながらも、他の被災者の心のケアに奔走した若き精神科医・安克昌(あん・かつまさ)氏。手探りながらも多くの被災者の声に耳を傾け、心の痛みを共に感じ、寄り添い続けた日々。震災後の心のケアの実践に道筋をつけ、日本におけるPTSD(心的外傷後ストレス障害)研究の先駆者となりました。在日韓国人として生まれ、志半ばでこの世を去りながらも、険しい道を共に歩んだ妻との「夫婦の絆」と、彼が寄り添い続けた人々との「心の絆」を描きます。主人公の精神科医・安和隆を柄本佑さんが演じ、妻役に尾野真千子さん、親友役に濱田岳さん、兄役にはNHKドラマ初出演となる森山直太朗さんが決定しました。阪神・淡路大震災から25年を迎える2020年に、人の心に寄り添い、心の絆を繊細に描くヒューマンドラマをお届けします。
(以上公式サイトより)
今年の1/17で阪神淡路大震災から30年となる。
私は戦後26年目に生まれたので、それよりも長い月日が流れたという事。つまり今の子ども達にとっては、私が戦争を思うのと同じくらい昔に感じることだろう。
そんな事を思いながら、5年前に制作されたこのドラマを視聴した。
原案は安克昌先生の本。主演の柄本佑・尾野真千子に加えて近藤正臣ら芸達者を揃え、丁寧に作られた良いドラマだった。
安克昌先生は優れた精神科医であり、心優しい息子であり、思いやりあふれる夫かつ父親であった。ドラマ内だけでなく、実際にそうであったと思うのだが、どうしてこんな良い人が若くして亡くなってしまうのか。とっとと死ねばいいと思う悪人どもの方が何故長生きなのか、この世の不条理を思わずにいられなかった。
柄本佑の演技が上手すぎるというか、ちょっとした表情や仕草で、主人公の気持ちをさりげなく表現する。大河の道長に劣らない名演。
朝ドラ"カーネーション"の糸子とは対極的な初々しい女性を、違和感なく演じる尾野真千子も素晴らしい。
震災後の神戸の町、避難所の様子の再現も悪くなかった。
「冷たい床の上で、あなた眠れますか?」体育館でそう話す女性を見て、30年後の今は少し改善されているのだろうか? 能登の避難所は改善されているのかと思いをはせた。
このドラマのタイトルは、安克昌先生の著書と同じだ。震災で病んだ心をどう癒すのか、それが一番描かれていたのは仮設住宅でのやり取りだと私は思った。
学校の先生なのか、子どもが独立した後に震災で妻を亡くした男性。震災直後は、避難所でのボランティア活動で気が張っていたのだろう。少し落ち着いて仮設住宅にひとり移り住んで以降、妻の写真を見ながら孤独を感じる。
「お米無くなったし、もう死のうかな」
ナイフに手を伸ばしかけたとき、以前子どもの泣き声について慰めた隣室の女性がドアをノックする。
神戸の春の風物詩「いかなごのくぎ煮」を作って持ってきてくれたのだ。
タイミングも良かったが、きっと亡き妻も作っていたのだろう。くぎ煮の入った容器をしばらく見つめた後「お米、買いにいこ」。
彼の自殺を止めたのは、かつて寄り添った相手のちょっとした厚意だった。
人と人とのつながりって、こういう事だと思う。
また、ドラマ終盤には安先生の本を読んで精神科医を志し、東日本大震災の被災者支援を行う若者のシーンもあった。
安克昌先生が御存命だったなら、あの頃より更に生きづらさを感じる今を、どのように見つめ照らしてくれただろうか。
本当に惜しいという気持ちと共に、自分はできる事をやるしかないと思うのだった。