「邪馬台国はどこですか?」鯨統一郎
学術的に1つの事象を証明するのには、すごい時間と労力がかかるのだろうと、研究者でもない自分でも想像がつく。
なので「こういう説がある」「こんな説が有力」という表現をされるのだろうと。
数ある事実を1つずつ検討して説を裏付けていく、ただすべての事象を網羅することは”神”でもなければ無理なので、有力というお墨付きをつけるまでしかできない。
梅原猛という日本の哲学者がいる、彼の書籍で「隠された十字架」という評論がある。
これは法隆寺に動線的にも建築様式的にもおかしい柱が中央にあるそうで、それは誰かの墓標じゃないか、というのを数々の事象を元に説として立証している本、けっこう分厚い本で柱一本に対する説を、学術的なやり方だとここまでページを割いて説明しなければならないんだなぁと思った。
これを小説という形でやると、その辺ゆるゆるでエンターテイメントに全振りできるので、面白い作品になるのだ!!
本作はあるスナックで、バーテンと教授と助教授、そして歴史好きのサラリーマンの4人で繰り広げられる歴史ミステリーだ。
バーテンは読者のアバターだ、歴史については小・中・高での知識ぐらい、たまに時代劇等で知識を増やす程度。
教授・助教授は学術的なアプローチをする代表。
そしてサラリーマンの宮田が曲者、彼はミステリーでいうと名探偵的役割、突飛な発想で定説とされているものをまったく別の解釈で覆していく。
宮田のこの発想が面白くて、例えば助教授の女性が「最近風俗でバイトしている女子大生がいる、嘆かわしい」と日本はもうだめだ、みたいなこと言うと、宮田は「日本は素晴らしい国だ、風俗嬢でも大学にいけるのだから」と逆転の発想を披露する。
そんな宮田によって覆される歴史は下記の通り。
・邪馬台国の本当の場所
・織田信長、本能寺の変の真実
・明治維新の真実
・イエス・キリスト復活の謎
前述した通り、学術的に立証するのであれば、たとえば1~1000の事象を検討しなければならないが、本作では宮田の突飛な説を裏付ける事象のみがトリミングされて読者に提示される。
なので、読者としては宮田の突飛な説が真実なのでは??もう論文にした方がいいんじゃない!?なんて思ったりして、エキサイトしてしまうのだ。
1個1個が物語仕立ての部分をもっと厚めにして、もったいつければ立派に長編としても成立するような内容、しかも歴史好きが好きな内容ばっかり。
これを短編で出すなんて本当にもったいない、といいつつお得感ににっこりなのだ。