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「蒲生邸事件」宮部みゆき

宮部みゆきは多才だなと思う。

ミステリー作家だと思っているとそれだけではない。
時代小説も書くし、ファンタジーも書く、SFものまで書くとジャンル問わず大活躍している。

映画化も多数されていて、なんかいまいちな映画化もあるけど、面白いのも多い。
個人的には「ソロモンの偽証」が良かった。
中学生の飛び降り自殺に他殺の疑いがあり、中学生が裁判形式で真相に迫るという話だった。
中学生役の役者たちの演技がすごくて、前後編という長い映画なのだが、一気に見てしまった。
これは原作を読んでみたいと思う。

本作「蒲生邸事件」も、実は映像から入った。
NHKでドラマ化、白い雪の中の蒲生邸のイメージが強く記憶に残っている。
ドラマが非常に面白かったので原作を読んだ、という経緯。

本作はミステリー的な要素も若干あるが、タイムトラベルをテーマにしたれっきとしたSF小説だ。

ストーリーはこんな感じ。
大学受験に失敗し、予備校の入校試験を受けるために東京に出てきた主人公、試験の間はホテル住まい。
そのホテルで、どこか黒い影をまとった宿泊客の男と出会う。
また、このホテルは過去に焼け落ちた蒲生邸の跡地に建てられたもの。
そのせいか、かつて自決した蒲生大将の幽霊が出るという。
そんなホテルで火災が発生する。
もうやばいとなった時、出会った宿泊客によって主人公は過去にタイムスリップする、要は命を救われる。
で、タイムスリップした先は2.26事件が発生する昭和の世。
焼け落ちる前の蒲生邸だ。
という始まり。
2.26事件の失敗を察知したことで、青年将校を擁護する側だった大将が自決するが、銃が見つからない。
もしかして他殺!!というミステリー要素もある。

見どころはいろいろあると思った。
現代の若者が、戦争前の不穏な時代の空気や青年将校達の生きざまを見て何を感じるか。
またタイムスリップものの、この時代の”コレ”は実はタイムスリップによる事象だった、という伏線回収。
時代の違う人々が心を通わせ、そして必ず来る別離のはかなさ。
そして、タイムスリップの能力があっても、歴史を変えられないという悲しい現実、作中ではタイムスリッパーであるおじさんは自分のことを”まがい物の神”と評するのだ。

タイムスリップ物との出会いの最初は、小学生の時に読んだ「ズッコケ時間漂流記」だった。
その時から、時間旅行者との出会いと別れの切なさを感じてたもんだ。
最近の作品だと、細田守監督の「時をかける少女」でも別れが描かれていた。
運命は変えることが出来ない、時間の違う人々とずっとは一緒にはいられない、SF的な面白さもあるが、タイムスリップものの魅力はこのせつなさだと思う。

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