「その可能性はすでに考えた」井上真偽
まさに名シーンを連続で見せられた感じ。
一番楽しいこと、一番美味しいものをこれでもかって突き付けられる、贅沢な経験だった。
以前、「毒入りチョコレート事件」アントニィ・バークリーを紹介した。
複数人が一つの事件に対して複数の推理を披露する、ミステリーで一番の醍醐味である謎解き部分が、これでもか!!とつまった作品だった。
そして本作も同様、1つの事件に対する複数の推理が披露される、贅沢な1品なのだ。
しかも、日本のミステリーにある、変で不思議で華麗にすぎる名探偵、漫画のようなつめこみすぎな設定、そして猟奇的な事件、こういったテイストも詰め込まれていて、ミステリーファンとしては楽しくってしょうがない!!
本作は非常に面白い趣向を凝らしている。
それは何かというと、登場する本作の名探偵は、不可能状況を可能にする”奇蹟”を信じたいと切望しているのだ。
あらゆる可能性をつぶした先に残るのであれば、奇蹟はある!!という信念を元に調査する。
そして”奇蹟”の存在を否定したい人達が人為的なトリックでの真相を提示、探偵は「その可能性はすでに考えた」と矛盾を見つけて論破していくのだ。
基本推理を披露するのは、探偵を否定したい”敵”側、探偵はそれらを論破していくという趣向。
これが面白い。
どの推理も聞いた瞬間はありえる!!と思うのだが、探偵があざやかに矛盾を指摘するのだ。
最初に提示される事件の概要、ここにある様々な要素をうまく切り取って、ころころと万華鏡のように変化するかりそめの真相。
最終的な結論を聞いても、まだほかにも解き方があるんじゃないか?と思わせる面白さがある。
また前半にも書いたが、探偵の魅力もある。
青い髪、派手な服、眉目秀麗でオッドアイの名探偵、彼に好意をもってそうな探偵に多額の金を貸している女性がパートナー、彼女は中国闇社会ともつながっているという盛りだくさん設定。
事件も新興宗教団体における首切断事件という猟奇的なもの。
舞台・登場人物・物語、三拍子そろった作品だ。
余談だが、最近「金田一少年の事件簿」ドラマを見た。
映像はむずかしいなぁ、と実感。
漫画や小説では違和感無く読める、荒唐無稽な物語が、映像になると急に安っぽくなるのはなんなんだろうね。。