「ドラゴンズ・ウィル」榊 一郎
デウス・エクス・マキナという言葉があるそうだ。
「機械仕掛けの神」という意味らしい。
なんか舞台上で物語が錯綜した際に事態の収拾の為、登場人物たちにヒントを与える存在だと。
なんとも都合の良い、ゲームのEasyモードで出てくるヘルプ機能みたいな神様だ。
その世界を成立させるための装置、神。
本作の世界では、世界を統制する為のルールが存在する。
はたして上述のような世界観を維持する為の神が存在し、その存在が設定したルールなのか。
ただそのルールが風化・形骸化することが物語の主題だ。
竜、ドラゴン。
中国では神、西洋では悪魔の類。
本作では後者。
作中世界にはルールがある、それが勇者と竜だ。
光として勇者が存在し、その対極として闇の象徴である竜が存在する。
善なる存在の勇者が竜という悪を倒すことで世界の秩序が保たれるのだ。
主人公の少女は、勇者である兄が竜退治に乗り出さないことに業を煮やして自ら竜の元に赴く。
ただそこでであった竜は紅茶と読書が好きな心優しき竜だった。
少女と竜は交流を深めていく。
この竜の存在は世界のルールの破綻の象徴だ。
なぜ心優しき竜がいるのか、竜は世界の理では悪でなければならない。
竜が優しくいられる世界、それは竜以外の悪が存在する世界。
すべてを凌駕する圧倒的な悪、それは人間。。人間が悪となる世界になってしまったのだ。。
まるで今我々が住むこの世界のように。
人をもっとも害する存在は、人だ。
そんな世界の変容が、少女と竜の運命を無理やり変えていく。
ライトノベル、富士見ファンタジア文庫で刊行された小説で、作者のデビュー作。
シリーズ作ではなく1冊で完結している。
少年少女に向けてだが、人間の残酷さやそれに立ち向かう人々を描いた素敵な、そして切ない作品だ。
ライトノベルだからとか思わず、大人も読んでみて欲しい。