「風の大陸」竹河聖
読書感想文が苦手だった。
夏休みの宿題でかならず出たのだが、いつも悩んでいた。
まず、何を読んだらいいかわからない。
たぶん「みんなの学校のこわいはなし パート6」とかで書いちゃいけないんだろう、学校に出して怒られないと言うと昔の文学小説かなと、でも読むのだるいなぁと。
で実際に書くとしても、自分の体験と紐づけたり、熱い思いを載せたりってすることが出来ず、結局のところあらすじと「大変だと思いました」的な自分が感じた単純な喜怒哀楽を書くだけだった。
小学校高学年になると、パート毎に喜怒哀楽を差し込むことで文字数を増やす、という姑息な技を編み出した。
そんな読書感想文、今でもそうなのかわからないが優秀作品は文科省、俺の時代では文部省にて表彰されていた。
なぜこんなことを書くかというと、中学生の女の子がこの「風の大陸」シリーズを題材にして書いた読書感想文が賞を取っていたから。
富士見ファンタジア文庫のシリーズを題材にしてもいいんだ、と思ったのと同時に、年下の女の子の読書感想文のうまさに衝撃を受けた。
すげぇなぁ。
そんな「風の大陸」。
富士見ファンタジア文庫の長編シリーズだ。
ストーリーはがっつりファンタジー。
舞台はアトランティス大陸。
ケンタウロスに育てられた魔術を使う青年”ティーエ”、すごい美貌でオッドアイ。
感情の起伏で、地震が起こったり雷雨が起こったりするやっかいなやつ、なので感情を出さないように教育された。
嘘がつけないし、世間知らずで男女の感情とかにも疎い。
行動原理が「人も動物も悲しくなるのは嫌、みんなを助けたい」という感じで、嘘をつくこともできない清い青年だ。
この青年が2人の仲間を得る。
1人は出奔した小国の姫君、彼女は男装して旅をしている時に、ティーエと出会う。
もう1人は凄腕の剣士、大陸で有名な「自由戦士ギルド」に所属する大剣使い、魔術師で薬師であるティーエに命を救われて仲間になる。
この3人がアトランティス大陸を冒険するという話。
この作品、いろいろな事件が起こるのだが、なんというかどこかさっぱりとした空気を持っている。
主人公であるティーエを中心として物語が進む。
ティーエは上述した通り、子供のような純真な人物で、彼が人の為に良きことをしようと思った時、自身の魔術や仲間たちの力でそれを為す。
その為、結果として物語全体が清らかな雰囲気に包まれているのでは、と勝手に考察してる。
すごいと思うのは、良い人物を万人に良い人物だと思われるように書けていることだ。
正義や良きことというのは人によって、文化によって違うと思う。
ヒトラーにとっては優生学的に劣った(彼の歪んだ理屈で)人間は不要、が正義だし。
例えば性に奔放な女性は儒教等の道徳では悪だが、性に奔放イコール子だくさん、民族の繁栄という価値観の人々には正だ。
ティーエという人物を、みなに愛されるよき人として描ける作者はキャラクター造形の才能があるんだろうな、と思った。
青少年向けの本シリーズ、途中で読むのをやめてしまった。
今調べてみると、シリーズは完結しているし、新シリーズもあるという。
。。。また読んでみようかな。
ちなみに画像は、男装の姫君。
1巻じゃないが、好きな表紙を選ばせてもらった。