was rail (わすれる)
僕たちは毎日生きている。時間だけはみんな平等。
自分の小さいころの夢は何だったか。
昔好きで遊んでたおもちゃは何か。
親の車で流れてたあの曲の名前は何だっけ。
物心ついたころにあの子と喧嘩したけれど原因は何だったか。
あの日なぜか機嫌がとても悪かった。でもなんで?
旅行にたくさん行ったけど初めての旅行はどこだったけ。
時間はずっと進んでいる。自分の思い出やその頃の感情は遠ざかっていくばかり。絶対に忘れたくない、忘れないだろうと思っても忘れてしまうこともある。
好きなアーティストのライブに初めていったときの鳥肌の立つ感覚。
初めて食べる高級な鉄板焼きの味。
映画で初めて感動して泣いたあのシーン。
インフルエンザに初めてかかり死ぬんじゃないかと感じた苦しみ。
大好きだった子に振られる失恋の喪失感。
受験の合格発表の緊張感と受かってた時の幸福感。
サッカーでリーグ優勝した時の嬉しさ。
新しい服や曲に出会った時の感覚。
感覚は常にその当時のもので完全に思い出せない。一度きりの初めての感覚と思い出。どれも一生の思い出にはなるかもしれないが感覚はかすれていく。「あの時は興奮したな」で落ち着いてしまう。
きりすぎた前髪もいつかは伸びて馴染む。
引っ越して慣れない方言もいつかは様になる。
けがをして血が出てもかさぶたとなる。
どんなに熱が出てもいつかは治る。
辛い体験をして心が空になっても満たしてくれる人に出会える。
雨が降り続いてもいつかは晴れる。
今をどんなに楽しんでも過去になる。
忘れてしまうこと、wasになることが増え続ける中で明日は何をしよう、どんな日を過ごそうとrailを敷き続ける。どんなに今が辛くても時間が忘れさせてくれる。忘れたくないことでさえも。
どんなにきれいな花でもいつかは枯れる。でも桜は違う。
去年の桜はどんなモノだっけ。桜の季節は毎年やってくる。
桜の景色を忘れたころにまた教えにやってくる。
もう桜は来年に向けて長いrailを敷き始めていることだろう。