【最新作云々㊴】必見!仙人ジュリーの自給自足お料理教室!! 人はやがて対人関係を卒業し、自然と一つに...シニア版"リトル・フォレスト"映画『土を喰らう十二ヵ月』
結論から言おう!!・・・・・・こんにちは。( *¯ ꒳¯*)
ジュリーといえばファンだった母の影響で幼少期にカーステレオで山ほど聴きましたが一番回数聴いた覚えがあるのは『コバルトの季節の中で』なO次郎です。
※母がテレビの音楽番組等でその姿を観ては「もう!こんなにダルダルに太っちゃって!!」と文句を垂れていた90年代のジュリー。
まぁ、年齢からすると至って自然ではあるんだけど、昔の美しさを思うとね…っていう。
何かと気難しい方という話は聞きますが、今ではその今昔のビジュアルギャップを自らネタにしたりされてるようなので懐が深いことよ。
今回は邦画の最新作『土を喰らう12ヵ月』です。
少年時代に京都の禅寺で精進料理の作り方を教わった著者が、記憶をもとに1年間に渡って身近な食材で作り続けた料理について綴ったクッキングブック兼味覚エッセイを原作とした自給自足の食生活映画。
雪深い山荘で気ままに暮らす初老の男の一年の食事、それに連なる他者と自然との交流を通して研ぎ澄まされていく彼の死生観。
自分の身の周りの自然と向き合い、土と格闘しながら何か月も前に仕込んだその実りを喜びとともに口にする…そこにある些細な現実に一つ一つ感謝しながら生きる生活は素敵ですが、それと同時にほぼ自己完結して人と人との友愛・軋轢と対立する生き方でもあり、ただそこに在ろうとするのかそれとも我を撒き散らし合いながら爪痕を残すのか、その相克とバランスを問うた作品でもあると感じました。
かねてよりのジュリーファンはもとより、日々の社会生活に忙殺されている方々にその対極の隠居生活の是非を考えるきっかけとして読んでいっていただければ之幸いでございます。
それでは・・・・・・・・・・・・・・"マサオくぅぅ~~んッ!!"
※"ジュリーの新境地"として評価された『ヒルコ/妖怪ハンター』(1990)についても以前に感想文書いておりますのでよろしければ併せてどうぞ~。
幼少期の僕のジュリー絡みの思い出についてもちょこちょこ書いております。( ˊ̱˂˃ˋ̱ )
Ⅰ. 作品概要
ジュリー扮する還暦過ぎの初老作家が幼少の砌の禅寺生活で学んだ精進料理を身の周りの季節の野菜山菜に感謝感動しつつ自ら頂き他人に振舞い、冬から来冬までの一年間の中で近親者の死と自身の急病に見舞われつつ、粛々と終活に向かいつつ一日一日を生きる穏やかながら孤高の生活を描いたドラマ。
劇的な物語は展開しませんがそれは予告からして言わずもがな、老境に到って如何に来るべき死と向き合うか、そこから翻ってこれから人とどう向き合うかを日々の何気ない生活の中で沈思黙考する奥行きの深い物語です。
若い世代には退屈かというと決してそうでもなく、人が老いていく中でどういう思考を辿りどういう余生を望むものなのか、そこからして自分はどう老いる準備をすればよいのかを考えさせてもくれます。
映画に限らずドラマ作りには様々なジャンルが有りますが、よくよく考えればこれはほぼすべての人が現実の人生において直面する集大成の一大事であり、であるとすればこれほど万人向けの作品も無いでしょう。
- 親類や隣人たちになるべく迷惑はかけたくない、されど身体が衰えていく中だからこそ気兼ね無く自分の思うがままに行きたい。 -
人生の黄昏時のそうした普遍的なジレンマと向き合い自分なりの答えを見つける。それが本作におけるドラマ上の宿敵であり闘いなのかもしれません。
Ⅱ. 時の過ぎゆくままに信州にひとり…の巻々
冒頭、周囲の庭と畑が雪に覆われた山深い山荘にて暮らすジュリーが雪の下から小松菜や白菜を収穫し、土間で黙々と調理を行います。
水で泥を実に丁寧に落とす様は手間が掛かっていて実に面倒臭そうに見えますが、我が身を生きながらえさせ活力を与えてくれる食物を育んでくれた土に触れるその姿はいつも楽しそうであり、人となりを感じさせるところです。時短を重んじる向きとは正反対のものを既に感じます。
雪国育ちの自分としては「何はともあれ冬山暮らしといえば雪下ろしの過酷さを描かないといかんでしょ…」と思ったりもしましたがまぁそこは作品の趣旨から外れてしまうということで。
田舎の山間部暮らしだけあって周囲の人たちも年配の方々ばかりですが、ベテランの俳優陣が尺は短いものの実に印象的な温かいキャラクターを演じています。
主人公ツトムが"師匠"と呼ぶ大工の火野正平さんはぶっきらぼうながら朗らかで、ツトムをある日訪ねてくるお寺の娘さんの文子(演:檀ふみさん)は相変わらずの上品な佇まいで、ジュリーと向かい合って微笑み合う姿はなんとも絵になるところです。
また、義理の母親であるチエ(演:奈良岡朋子さん)との関係はなんとも印象的であり、気持ちの整理がつかず妻の墓を未だに建てていないことを咎められる気まずさはありながらも、お互いに気ままな一人暮らし同士、気難しい彼女ともどうにかこうにか上手くコミュニケーションしているところがなんとも可笑しいところです。
この数か月後、彼女は掘っ立て小屋で亡くなっており、ツトムがそれを発見しますが敢えてその姿は映しません。
義理の弟妹夫婦である隆(演:尾美としのりさん)と美香(演:西田尚美さん)に葬儀一切を押し付けられて渋々自身の山荘でチエさんの葬儀を執り行いますが、予想に反して村からの弔問客が大挙。真知子さんに手伝ってもらいながらの料理の給仕にお経に(このジュリーの般若心経がなんか味があるんだわ…)と大忙しで、終始スローテンポな物語の中に在ってここが一番のドラマ場面かもしれません。
その葬儀とお骨引き取りも済んだとある日、焼き物を焼く窯を庭に拵えようとしていたツトムは突如心筋梗塞で倒れてしまいます。
不幸中の幸いにしてたまたま山荘を訪れた真知子がすぐに発見し、救急車で運ばれて事なきを得ますが、ここで彼は否が応でも己の"死"をすぐ身近な現実のものとして向き合うことを余儀なくされます。
彼の身を案じて悩みに悩んだ末に真知子は彼の山荘で同居する決心をしたことを話しますが、ツトムはそれを努めて穏やかにしかしハッキリと断ります。「僕の領域に入ってこられたくない」と。当然ながら「身勝手だ!」と怒った彼女は出ていきます。
もちろん、彼女の厄介になりたくない、迷惑を掛けたくない、という思いもあるでしょう。すぐにポックリ逝くのなら未だしも、少しずつ身体が不自由になっていくのなら彼女に介護の重圧をかけてしまいます。
隆と美香がチカに対してそうであったようにいっそ自分に対してドライであってくれればまだいいかもしれませんが、近くに居るゆえに弱り行く自分に同情的になって欲しくなかった面も勿論あるでしょう。
しかし一方で、真知子が救急車の中でひたすら「死にたくない…!」というツトムの声を耳にしていて彼自身もその自覚が有ったことから解るように、自らの死を迎える準備をすることと、それを近しい人が居ることで惑いたくない気持ちも相応に強かったのではないかと思います。
死を前にして狼狽えている老醜をこれ以上近しい人に晒したくないプライドも相応に有ったでしょう。
いつ突然死を迎えるかわからないのは恐ろしいからとある晩に死を迎えたと規定し、もしその次の日に目が覚めたらその日一日の命と思ってその日の生と糧に感謝し、また次の日も目覚めたのであればその一日限りを繰り返す…。
自分の来たるべき死にがっぷり四つに向き合ったからこそ、十数年来墓を建てていなかった亡き妻の死とも向き合い、自分の住む山地の湖に散骨します。
結局墓を建てないのはともすれば薄情にも映りますが、彼女を偲ぶのは自分一人でよく、さらに自分も亡くなった後は墓という形に残すことで親類に自分達を偲ぶ義務を残さず、またその領域に踏み込ませないという意思表示でしょうか。
とどのつまり二人の人間としての流れる時間があまりに違っており、特にツトムの側はそれを擦り合わせる必要性を感じられなくなったということでもあるでしょう。
その擦り合わせをする煩わしさこそ人と人との関係性であり、作家として生きて認める原稿で以てして世に語り掛ける社会性でもあるのですが、ここにきてそこから卒業する覚悟を決めたようでもあります。
"夫婦が寝室を一緒にしなくなる理由は「どちらかのイビキ」が原因の不動の一位"と冗談交じりに自分は豪語しているのですが、熟年夫婦だとどうやらそれだけとも言えないようで、生活時間の違いが相応のウェイトを占めるようです。
曰く、"起きる時間やちょっと寝る前に本を読む時間が違ってくる"のだとか。
若い世代としては"それぐらいならお互いに我慢できるんじゃ…"と思いますが、その些細な相違ですら憚られる神聖不可侵の領域になる、ということでもあるのでしょう。そして夫婦同士ですら棲み分けをするのであれば赤の他人に対しては猶更、ということで。
取り残される周囲の人からするとなんとも哀しいところではありますが、作中でツトムの独白する通りそれが"人間一人で生まれて一人で死んでいく"ということなのかもしれません。
"散り際の美学"というとそれこそ戦場やスポーツの試合の場といった非日常の場所をついつい想像してしまいますが、これもある意味での、そして誰にでも演出し得るそれなのかも・・・。
Ⅲ. おしまいに
というわけで今回は最新の邦画『土を喰らう十二ヵ月』について書きました。
何はともあれやぱりジュリーファンがその客層の大半ではあるかとは思いますし、その向きに決して不興を買うような内容でもないと思いますが、そうではない層にもそうではない層それぞれにそれぞれの形で刺さる作品ではないかと思いました。
※そしてまた発表から二十数年の熟成を経てシングルとして主題歌採用されたこの曲で黄昏気分のままにエンドロールを迎える至福・・・。(*´罒`*)
今回はこのへんにて。
それでは・・・・・・どうぞよしなに。