page.10 人格関数
p3 では概念を関数として捉える方法を記したが,本項では“人格”を関数として捉える方法を記す。このような関数を“人格関数”と称ぶ。
ここで,「人格も概念なので,このページって結局 p3 に包摂されるような内容じゃないの?」というように考える人がいるかも知れない。しかし本項の目的は,人格を関数によって定義するというより,人格を関数によって機能的に扱えるようにする───そのような仕方で,人格を関数によって捉える───ことである。
そのやり方というのは,述語論理と非常に相性が良いので,取り急ぎ述語論理における命題の構造を簡単に述べておこう。
述語論理というのは,命題論理が命題を単位としてその論理構造を扱うのに付して,量を機能的に扱えるようになったものである。まずは,“ある議論において用いられるすべての個体を網羅するような集合”として議論領域 N というものを設定し,任意の個体 n∈N を外延に割り当てることで述語の意味を規定する。それぞれの述語記号の真理値は次のように解釈される。
1項述語記号 Fa に対して, F の外延に a が属していれば“⊤”を,属していなければ“⊥”を割り当てる。
2項述語記号 Fbc に対して, F の外延に議論領域の要素のペア<b,c>が属していれば“⊤”を,属していなければ“⊥”を割り当てる。
(一般に,n項述語記号のことをアリティnの述語記号と言ったりする。また,1つのアリティを持つ述語記号のことを単項述語記号,2以上のアリティをもつ述語記号のことを多項述語記号とも呼ぶ)
これだけを初見するとわかりにくいかもしれないが,次のような具体的解釈を考えると感覚として掴みやすい。たとえば,議論領域を {b,c,d} の3つの個体からなる集合だとして,それぞれ「犬」「猫」「去年購入したコップ」だと具体的に解釈しよう。そうして,1項述語記号 Fn の具体的解釈は「nは動物である」だとして,「犬」と「猫」をその外延として割り当てよう。このようなとき,1項述語記号 Fb や Fc は ⊤ であり, Fd は ⊥ である。
もうひとつ,2項述語記号についての例を出そう。議論領域を {e,f,g} として,それぞれの具体的解釈を「波平」「サザエ」「カツオ」であるとしよう。2項述語記号 Fnm については,「nはmの親である」という関係をいうものとして,その外延には議論領域からペア {<e,f>,<e,g>} を割り当てる。このとき, Fef と Feg は ⊤ であり,それ以外のペアがあてられたもの,例えば Fgf などは ⊥ となる。
迂遠したかもしれないが,以上が述語論理における概括的な命題の構造である。しかし,ここまでくれば本題が端的に述べられる。
既記のように論理における解釈とは,命題と真理値の橋渡しをするのであるが,人格における真理値については,通常“3値”を採る。
3値の論理とは,つまり真理値が {⊤,⊥,I} の3つの値を持つということである。それぞれ「真,偽,不明」とでも表現しよう。
人格関数は,任意の命題から,上述したような3つの値を持つ真理値への関数を考えるものである。つまり,3値述語論理における“解釈”と同じようにふるまう。
任意の命題について同じふるまいをする人格関数は同じ人格であり,それ以外のものは別人格である。
人格関数は,命題を命題論理のように捉える立場からは違和感を残す不安が強いが,述語論理のような捉え方を用いれば円滑に受け入れられる。