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carobook
『風化』
父の病状が悪化し、仕事を休職することにした。
休職してから間もなく、久しぶりに風邪を引き、寝込んでいた。市販薬を飲んでいたが、なかなか治らず、夜中に急に呼吸が苦しくなり始めた。自宅で療養している父に頼るわけにもいかず、タクシーを呼び、夜間救急で病院を受診することにした。すぐに入院が必要との判断で、点滴治療を続けていた。呼吸困難を引き起こすほどに、喉の炎症が悪化していたらしい...
やがて、症状は改善し、退院することとなったが、声だけが戻らなかった。そして、なぜか涙だけは溢れ続けていた。何に苦しんでいて、悲しんでいるのか、自分で自分が分からなかった。
主治医の先生に、精神科への受診をすすめられた。声で伝えることのできない私は、筆談での対話をとることになった。書いて自分のことを伝えるということに、不思議と面白さを感じていた。気持ちというものは、必ずしも声だけで伝えるものでないということを知った。
でも、筆談での対話がなくなることを想像して、怖さを感じるようになった。字を書こうとすると、その怖さが過るようになり、手が震えるようになった。書けなくなった。自分の気持ちを伝えることができなくなった。
傷というものは、消えることがないのだろうか。傷が、また傷を生みだしていく。私は、傷だらけだ。