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【陽だまり日記】更紗の陽差しに、朱の実を結ぶ。

お昼になる頃には、ずっしりと垂れ込めていた雲が一掃され、青が広がっていた。
朝は霙が降っていたけれど、道路はもうすっかりと乾いている。
昼食を終えて、業務の再開まではあと少し余裕があるので散歩に行くことにした。
幾分か寒さの和らいだ外を、ショールを羽織って歩く。

こういう白っぽい陽射しを、宮沢賢治は、「お日様がまっ白に燃えて百合の匂ひを撒まきちらし」なんて言ったのだろうか。
それとも、百合の香りのする陽光は、雪国に行かなければお目にかかれないのだろうか。


セピア色をした世界をゆくと、くっつき虫と目が合った。

くっつきむし
アメリカセンダングサ

湿った場所を好むと聞いたことがあるけれど、工事現場特有の乾燥した粗っぽさの中でも強かに根を張っている。
パカッと開いた果実のトゲトゲが何だか憎めない。
くっつき虫もといアメリカセンダングサの花言葉は「近寄らないで。」だそう。
写真に収めると有刺鉄線のようで笑ってしまった。

近寄らないでと言いながら、くっつき虫か。
逞しくて、天邪鬼で、甘えん坊な子だ。


そろそろオフィスに戻らないと。
極度の方向音痴のせいで、いつまで経っても道を間違えそうになる。
座標軸としている建物に目を向けながら引き返す最中に視界の端っ子に気になるものが映った。

艷やかなこの子は、鈴バラだろうか。
時間も押しているというのに、再びスマホを取り出しカメラを構える。
寂々とした陽光と朱がとろりと溶け合っている。

かわいい鈴バラ

今度こそ足を止めずに職場に戻らなければ。

勾配の緩やかな坂を行く途中、数年前に退職した、女性職員の方を思い出した。
会社を去る際に、彼女は私達にこんな話をした。


「20代の頃は、がむしゃらで構わない、貴方の足元の土を耕しなさい。いろんな方向に耕すの。そして一生懸命種を蒔きなさい。」

「30代は、芽吹いたものに水を遣って育てるの。」

「40代は、花を咲かせることに躍起にならず、地道に手入れをしなさい。」

「そうすれば、いつか必ず花が咲いて実を結ぶ。結んだ実は、貴方の手で次の後世に託してください。そうして世界は回っていくのだと思います。」


あの時、彼女は、仕事だけではなく人生を語っていたのだと思う。

今年も、もうすぐ幕を引く。
私は私の人生の手綱をきちんと握ることができているのだろうか。
丁寧に何かを芽吹かせ育てることができているのだろうか。
今一度、立ち止まって考えなければならない気がしている。





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