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【小説】廃用身 (久坂部 羊)

廃用身とは麻痺して動かず回復しない手足をいう。患者の同意の下、廃用身を次々と切断する医師漆原。
告発するマスコミ。
はたして漆原は悪魔なの
か...というお話し。

人によっては不快なテーマ表現なはずなのに読みやすい。
ただ自分にとっては先日、母が亡くなる前までの介護生活を思い出し少々辛い心境ではあった。
果たして闘病期間中、母は少しでも幸せな時があったのだろうか?
思い出の大半は美化され、その時に感じた醜くも真実に近い生の感情は薄れて忘れられる。
または都合のいい様にすり替えられてしまうものだと、身勝手で取り止めのない感情を反芻してしまう。

何が嘘で真実なのか?
正直、この物語の終わり近くまでこの話は真実をもとにしたフィクションなのではという疑念を禁じ得なかった。
それくらい綿密で緻密な筆力があった。
物語の終盤と共に訪れる様な漆原の落伍者ぶり。
果たして彼の感情とは、何が真実だったのだろうか?
彼は単なる狂った怪物だったのか?
それとも善行を認められずに理不尽にも皆から石を投げられる救済者だったのだろうか?

情熱、思い込みや怒りはときおり物事の入れ替わりをもたらす。
そしてその結果として、善良な人間が狂人や怪物に見えてしまうという事実。

自身が長く深淵を覗くならば、深淵もまた等しく自身を見返す。

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