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【小説】シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱 (高殿 円)

2012年、オリンピック開催に沸くロンドン。
怪我で除隊して以来、次の就職先が見つからない女医ジョー・ワトソンに、ベイカー街221bでのフラットシェアの話が舞い込む。
だが、シェア相手が特別だった。
同居人シャーリー・ホームズは、頭脳と電脳を駆使して英国の危機に立ち向かう、世界唯一の顧問探偵だという。
ある日、女刑事グロリア・レストレードが訪ねてくる。
遺体がピンク色に染まる中毒死が頻発しているらしい。
いまだ無職のジョーはシャーリーに連れられて調査に赴く。
それは、二人がコンビを組む、初めての事件...
というお話し。

あらすじを見てお察しの通り、シャーロック・ホームズのパスティーシュ(二次創作)もの。
しかも、原作登場人物全ての性別を逆転し、さらに舞台を現代のイギリスにして一捻り加えるという中々に挑戦的な作品。
時代背景・設定に関してはベネディクト・カンバーバッチが主演の「SHERLOCK」を思い浮かべれば近く、分かりやすいかもしれない。

一見すると見方によってはゲテモノ感(直接的な言い方で失礼!)があり、この手の作品でありがちな、安易であざとい女性像が強調されたキャラクターだけを浮き彫りにさせるような表現はなく、かつ文章が読みやすいし物語もちゃんとした意味でわかりやすい。

パスティーシュの出来としてはディープなシャーロキアンにはちょっと物足りなさがあるかもしれない。
しかし、その感触は原作を知らない人々も楽しめる為の工夫、そういった良い意味合いでの作品性ゆえのものなのかなとも思う。
それでも、オマージュや小ネタなんかにはニヤリとさせられる部分はあるんじゃないかな?
事件に潜むテーマが女性特有なもので一貫性や説得力があり、冒険小説としてスピード感もあり素直に面白いと思える。
なんならSF要素的なガジェットもあったりでワクワク感もある。

百合的な波動を感じる人々がいらっしゃる様だが、私的にはこの作品はシスターフッド的な感覚で捉えている。
恋愛的な感情(少なくともこの作品には)は感じないし、ましてや肉体的関係もしかり。
女性達が既存のイデオロギーへ対抗するとき、個人同士が連携して励まし合う、友情以上恋人未満かつ見えない強い絆の関係性、と言えば良いだろうか?
そういったものの深掘りが次回作であったらいいなと個人的に思っている。

ちゃっかり終わりにはもうちっと続くんじゃよ的な原作を意識しつつの幕引きでオラワクワクすっぞ!
ラスボスというか親玉の設定も原作を踏襲しつつ、一癖二癖あるようなキャラクター作りをされている様で余念がない。
次回作も文庫化しているようなので、近いうちに読んでみたい。
楽しみなシリーズものができて非常に満足度が高い作品であった。

Elementary , my dear Watson.

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