【小説】透明人間は204号室の見る (奥田 亜希子)
高校生で華々しく作家デビューをしたものの、それ以降パッとしない若手作家美緒。
自身の唯一の著作を本屋で手に取った大学生をストーキングし、掌編小説を彼の家に投函し続ける日々を送るが...というお話。
ディック好きなので、タイトルに惹かれて購入。
最近なんだかストーカーを扱った作品をよく読んでいる様な気がする...。
主人公の人間関係がどうなるか、常に身構え、ヒヤヒヤしながら読んだ。
主人公に共感は出来ないけれど、何かに足を踏み入れる事により人生が変化していく様ってこんなものかもしれないなと思わされる。
実に純文学である。
孤独を拗らせた向かう先は?
普通、ここまでの孤独を強いられたら、歪んでしまうものだし他者に敵意や悪意をむき出してしまう人がほとんどなのだと思うのに、実緒はそうはならなかった。
自己肯定感の低さが阻めてしまっているんだろうが、もっと幸せを得ることに貪欲になっても良いのかもしれない。
関心がある故の無関心さが自意識を拗らせる。
自分が見る、見られる事を強く意識せざれるを得ない自分の存在を透明化し妄想を肥大化させていく。
透明人間とは上手い表現だ。
人は一人では生きていけない?
他人に認知されて生きることが始まる。
自分は孤独には慣れているが、他人が書いた本を読む事は、その他人を認知しているんだよなぁ、と今更甚しくも恥ずかしくも目から鱗の様なものが...。
主人公は結局のところ小説なしで人と関わることができない。
小説越しの文学的思考越しに関わるのみであり、その関わりは小説を生み出す上での副産物でしかないのかもしれない。
そんな主人公の悲哀さを描写している様に思えた。
大した成長もなく、変化もない。
それは切ない。
しかし、この物語は彼女にとって、再生の物語でもあるのだろう。
透明人間は小説家の夢を見ることができるか?
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