映画エッセイ「銀河鉄道の父」
公開 2023年5月
監督 成島出
出演 役所広司
菅田将暉
森七菜
あらすじ
宮沢政次郎(役所広司)は、待望だった長男・賢治(菅田将暉)の誕生を喜び、彼に家業の質屋を継いでほしいと願っていた。だが賢治は、農業、人造宝石、宗教などに没頭して政次郎の願いを聞き入れようとしない。政次郎が家業を顧みない賢治に激高する一方、賢治が物語を書くことを楽しみにしていた妹のトシ(森七菜)が病に倒れ、賢治は「風の又三郎」と題した自作の童話をトシに読み聞かせるが、彼女は亡くなってしまう。打ちひしがれる賢治に、政次郎は物語を書き続けるよう促す。(シネマトゥデイより)
僕は宮沢賢治の本はまともに読んだことがありません。
学校の教科書で確か、「銀河鉄道の夜」と「雨ニモマケズ」の詩を強制的に読まされたぐらいで、しかしその2作品の、あくまでぼんやりした心象として「嫌い」というイメージが僕の中で出来上がってしまい、以来、彼の著書を手に取ることはありませんでした。
「銀河鉄道の夜」のいかにも観念的な心理ファンタジーがそもそも僕の好みではなかったし、小学生だったか中学生だったかは忘れましたが、その年齢で読まされるには難解すぎるのではないかと。
「雨ニモマケズ」の詩も、思春期の頃に教科書で強制的に読まされると、滅私奉公的なヒューマニズムを押し付けられているような気分になり、なんとなく反抗心が沸いてしまう。
後付けで分析すれば、そんな理由で「嫌い」レッテルを貼ってしまったのでした。
本作は宮沢賢治の父、政次郎を主役にした話です。商売人の政次郎は大家族の家長として立派に妻と子供たちの生活を金銭的にも精神的にも誠実に堅実に支えています。そんな父の視点から描かれる長男賢治は、典型的なダメ男です。
あらすじにもあるように、家業を顧みず、その時の気分でころころと変わる見果てぬ夢を語り、結局、何事も中途半端で何もしていない。ように見える。まあある意味、現代の若者にも通じる、よくいるありふれた青年です。
だいたい作家なんてものは売れてこそまともな人間扱いされるもので、下積み時代は、特に家族にとっては、バカみたいな夢見るだけの、中二病、現実逃避のダメ人間です。僕も作家になろうと夢見た時代もあったので、その時の周囲からの風当たりは、そりゃもうミソクソでした。
前半は、菅田将暉演じるバカ息子宮沢賢治と、役所広司演じる堅実な父政次郎親子のすったもんだが、現代の親子関係にも通じる親近感をもって描かれていきます。
他人のため(地域のため)に生きたいと願う賢治と、家族のために生きようとする政次郎の対比がシンプルに描かれる構成も、宮沢賢治ファンガチ勢に言わせれば説明不足感もあるようですが、僕の意見としてはわかりやすく心情がつたわってきて、これはこれでいいと思いました。
特に田中泯演じる祖父、森七菜演じる妹の死を越えて、日蓮宗に傾倒していくあたりから、宮沢賢治の純粋過ぎるまっすぐな人柄が素直に心に刺さりました。他者にたいしての無力さを、人一倍過剰に痛感しながら、もがき苦しみ、あの「雨ニモマケズ」の滅私奉公精神が出来上がっていく過程を描く中盤から後半では、かつて抱いた反抗心をいだかず、すっと賢治の精神が受け入れられたのでした。
本作が描いていることはシンプルです。
純粋に他人の為に生きようとし、志半ばで逝った賢治と、家族の為に生きた政次郎の話です。
対照的な二人が最終的には尊重しあうという、ある意味理想の人間関係、親子関係の結実の話です。そこを奇麗すぎるととる人もいるでしょう。
ほぼほぼ実話なようですが・・奇麗な表面だけを描いているともとれるでしょう。
父側に感情移入するか、賢治側に感情移入するか、人それぞれによって見方は分かれるでしょう。
僕には純粋な賢治の気持ちがまっすぐに刺さりました。
そして学生時代に抱いた「嫌い」レッテルが、解除されたのでした。
この歳になって初めて、半分ぐらい・・。
とりあえず宮沢賢治の本1~2作はちゃんと読んでみようかなと思いました。
そして何に対しても少ない情報と心象で「嫌い」レッテルを貼りがちな自分をちょっと反省したのでした。年齢を重ねるごとにその傾向が強くなっている昨今は特にいかんなぁ~と。どんな作品も作り手の思いに真摯に寄り添っていけたなら、自らの世界ももう少し広がるのではないかな、
などと思った次第です。