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自民党総裁選2024:林芳正『国会議員の仕事 職業としての政治』を読む

総裁選2024。各候補者の政策や人物などを視て、1票を決める時がきました。そして、それぞれコメントやツッコミ、そして文句も言いたいところですが、私は、報道で誰が勝ちそうとかの前に、自分の1票はそれぞれ候補者たち本人の著作を読んでみて決めようと思います。

国会議員が本を出すことは、有権者に考えることをまとめて伝える意味で重要です。ネットと違い出版後に修正効かず、消せないことや、政策を論じるからには反対する人も必ずいるので、特に本を出すことは総裁選での立候補の必須条件だと思います。

「政策通」と評される一方で、政策本を出してないのはナゼなのか

林さんには、2003年に出版された『林芳正のやさしい金融・財政論』がアマゾンで売っていて、これは読みたいなと思いましたが古書で3万円以上で見送り。帯のやたらに若い林さんの画像に笑っちゃいますが、丸っこいところは変わらないです。そんなツッコミはともかく。

政策通と評される一方で、自身の見解を述べた本が少ないのがなぜだろうと考えてしまいます。他候補はアピールするべく自分の政策について本を出版していますが林さんも出るのに、なぜ本が無いのか不思議に感じていました。総裁選で林さんに問いたいのは「なぜ本を出してないですか?」です。

しょうがないので、中公新書から出ている『国会議員の仕事 職業としての政治』2011年にしました。10年以上前になるので古いです。古いですが、面白い点も多くありました。

マックス・ウェーバーの名著の題を借りるだけあって、「職業としての政治」の実情を国民にも知ってもらいたいとの想いが込められていると思います。

「政治家になるまで」は平凡だが、米国の議員事務所でのインターン経験に注目。林さんらしく自慢が無い。

政治家になるまでの話は、正直平凡です。総裁選なので比較になりますが、河野さんの本に出てるような留置所体験ののようなスゴイネタは無いです。

一つ注目したのが在米中に米連邦政府の役人が日本の官庁で実地研修を行える制度を提案し、これがマイク・マンスフィールド・フェローシップ法」として1994年に成立して100人とのことです。

これは米国で日本を知らしめる成果を上げている林さんの実績だと思います。もっと実績として自慢しても良さそうな気もしますが、そうでないところが林さんらしいのかもしれません。政治家は自慢話大好きだからそういうネタは多くあるのが普通ですが。

「国会議員の仕事と生活」での官僚とのやりとりに注目

この章では1995年~2006年の回顧をされています。私はこのパートを興味深く読みました。政治家と官僚との関係では拍手したくなる記述も出てきました。

「自らの進路を自分で決める」局面に立たされた日本が実行すべき政策の一つは、規制緩和。たしかに、私はそう考えていた。これから国が伸びていくためには、民間に対する役所の手かせ足かせを可能なかぎり取り除き、自由で独創的なビジネスがどんどん花開くような環境を整える必要があった。 そう考えて議員としての仕事を始めてわかったのは、自分がビジネスの現場で実感していた以上に、役所が民間をがんじがらめに縛りつけている現状、そしてお役人の「自信」である。忘れられないのは、労働省が派遣業の問題で話しに来た時のこと。「どうしてこんな規制をするのだ」という問いに対し、担当の人間は、答える代わりに「ここで先生とお話ししても、何も決まりませんから」と言い放ったさすがにカチンときて、それならばと猛勉強し、商工委員会で追及した。

彼らは、基本的に噓はつかない。けれども、本当のことも言わない。たとえば、持ってきたペーパーに「……等」とあったら、必ず「この『等』は、具体的には何?」と聞かなければいけない。往々にして、羅列されていることがらの何倍ものものが、その一文字に隠されているので

大蔵政務次官の経験談で日銀の独立性が出てきてびっくり

大蔵政務次官(今の副大臣)時代の回顧では日銀が出てきて興味深く読みました。今から思うとあの金融危機が何だったのか、総括本ももう少し出ても良さそうな気もします。

私は、日銀の政策決定会合への出席とともに、必要に応じて日銀副総裁と直に話をするよう、宮澤さんから命じられた。トップ同士でなければ、刺戟は少ないだろうという深謀遠慮である。日銀法が改正され、日銀の独立性が強化されて間もない時だった。政府サイドが最も伝えたかったのは、いわゆる「ゼロ金利」を解除するのは時期尚早である、というメッセージである。
我々は、景気が十分に立ち直っていない段階での「ゼロ金利」解除には、反対だった

2000年の七月に次官を辞めるまで、私は七回の金融政策決定会合に出席した。その最後の会合(6月28日)で、日銀が「ゼロ金利」解除を提案してくる公算大、という状況になった。我々は、その場合、議決延期請求権を行使して抵抗しようと決めていた。ところが、直前に大手デパートのそごうが倒れ、さしもの日銀も提案は控えた。「ゼロ金利」解除が決まったのは、私が村田吉隆さんに引き継いだあとの、次の会合(8月11日)だった。議決延期請求を出したものの、否決されてしまったのだ。  だが、我々が危惧したように景気は悪化の一途をたどり、けっきょく1年後に再び「ゼロ金利」政策は復活となる。振り返ってみれば、やはり当時は、全体としてデフレ経済の怖さに対する認識が甘かったのかなと、思うのである。

金融は詳しくないのでよくわかりませんが、「日銀の独立性」で困る(困った)話は数多く出ていますが、日銀の独立で良かった事例を今まで1回も読んだことありません

有権者の芳しくない反応と対応について書かれているのが特徴

林さんの本書で特徴あると感じたのが、様々な時での有権者の反応と説明についての記述です。

選挙カーに乗って回ってみると、有権者の反応、街の雰囲気は意外なほどよくわかる。

2期目の6年間、地元に帰る機会は減ってしまったが、帰郷した折は後援者などと政策について話し合う場を設けた。

有権者の反応が芳しくなかったときに説明した話が出てきたのは林さんの特徴だと思います。総裁選なので比べてしまいますが、河野本、高市本、石破本では有権者からの反応についての記述は無かった、あるいは少なくて印象に残らなかったのはあります。コバホークの近著では罵声浴びた話も出てきましたが、有権者のネガティブな反応と向き合う話が出てくるのは誠実な印象は受けました。今はSNSにはなりましたので、本書の出た2011年とは有権者との接点をもつスタイルや問題点も変化があると思います。

政府の役職(大臣など)からの解説が分かりやすい反面、国会手続きの問題意識や党内手続きの解説などが薄かった

林さんは多くの政府の役を任されています。今回の総裁選でも大臣の経験が豊富なことがアピールポイントになっています。

本書でもその経験から多くのコメントがあり、納得の点は多くありました。特に「予算案が通るまで」「法律案が通るまで」「国会の1年」のフローチャートは有用で、これアップデートしたものが欲しいと感じました。

『国会の1年』の表はわかりやすかった!

一方で林さんの分かりやすい解説でも「語られてない」部分があります。国会や自民党の役の経験もあると思いますが、比較的ココの記述が薄い印象を持ちました。
むしろ私は林さんが書かなかった部分こそ重要で、直接関与してないとしても、書きにくかった事情もあるのでは、とも考えてしまいます。

①内閣法制局。「法律案ができるまで」の表で内閣法制局の存在が欠落してしまっているし、内閣法制局を政治家がどう考えているのかが関心はありました。法制局の審査が過剰なのでは、と言う指摘もチラホラ見ます。

②自民党内の意思決定。本書でも「この図の前段に党内のプロセス」とさらっと書いていますが、国会以上に、党内合意を得る方が遥かにエネルギーがかかるように思えますが、なかなかこの苦労を解説した本が少ない。
例えば、TPPの元気いっぱい?の議論で動画は面白いのですが、党内の意思決定のプロセスの解説はほどんどないです。

③国会の日程調整。
本書が出て、10年ほどして、筆者の林さん自身が外務大臣の当事者として国際会議に出席できない事態になってしまいました。河野さんも著書で怒りを込めて書いていますが同感でした。

ただ、本書での解説を読んでも、どこがどうネックになって(誰が妨害の主役で)、国際会議に出れなくなるのか、は分かりませんでした。国会での日程調整についての解説はほとんど出てきませんでした。ニュースなど見ても日程の話は出てきますが、本書の内容にはほとんど出てこないのでギャップがあります。

④自民党税調
党の役職(税調副会長)の詳細は知りたかったのですが、これは日程表の紹介に記載されているだけでした。特に党税調に関しては「インナー」などの単語が良く出てくることや、何より林さんの父義郎氏も党税調の「インナー」とされているので、党税調の紹介があれば興味深いと思いました。党税調の記述が無い点が惜しまれます。

終盤でなかなかいいこと言うと思った。

民主党政権を批判する中でこんな点を述べています。

政治家の勉強不足は、経済や国民生活に直接的な影響を与える。そのことを当の政治家は強く自覚しないといけないし、国民の皆さんに知ってもらいたいと思うのだ。

おっしゃる通りです。総裁選でも、有権者として勉強不足の候補者がいないか、しっかり見てみます。そのために候補者の著作を読んでいます。

おわりに、本書は民主党の津村啓介前議員との共著であり、津村氏のパートも興味深く読みましたが、今回は自民党の総裁選関連でしたので、ツッコミ書く暇はなく、割愛しました。ゴメンナサイ。




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