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蔵研也『18歳から考える経済と社会の見方』を読む

先日、SAKISIRUのウェビナーがあり、蔵さんにも質問をしてみたところ、面白い回答をいただき、有意義なウェビナーになりました。

両方とも、私としては少し予想外の展開の回答でこれは興味深かったです。
関心持たれた方はぜひサキシルのサブスク会員で。アーカイブ見れます。
そこで感謝もあって以前にも読んだ蔵さんの著書について推しの感想文を書いてみました。

本書は大学教授であった(2022年3月退職)の蔵さんが大学生向けの講義を想定して書かれています。蔵さん本人のブログでも内容を触れられていますので、参考にしていただければと思います。

「18歳から」と言うことで。大学の経済学の先生が新入生向け4月によく言うネタあります。「何のために経済学を学びますか?」「それは経済学者やエコノミストに騙されないためです。」このネタ詳細は以下参照ください。

正解を前提にした受験勉強しかしていない子は驚きます。高校と違い様々な見解を踏まえて疑ってみて、自分なりに仮説を立てて検証していく知的作業の訓練が大学では大事なので当然です。「エコノミストは全員ウソツキ」ぐらいの知的議論を楽しむ余裕が欲しいですが、それにうってつけの本です。

さて、本書の目次(構成)は以下の通りです。

【PART1】国民の豊かさとは何か
第1講 分業
第2講 交易
第3講 技術革新
第4講 マクロ経済学
第5講 失われた20年
補講1 倫理
【PART2】お金の話 通貨の歴史と現在
第6講 貨幣の機能と歴史
第7講 インフレとデフレ
第8講 貨幣の中立性
補講2   平等
【PART3】銀行の不思議 銀行制度と経済循環
第9講 銀行論
第10講 経済変動
補講3 自由

もくじ抜粋

さて、内容についてはネタバレもあり控えますが、本人のブログやYouTubeでというところです。私は類書に無い本書の魅力は4つあると思います。

(1)ニューストピック、そして社会や政治をどう読み解くか

さて『○○でわかる経済学』など「お手軽」を謳い文句にした入門書は数多くあります。しかし本書は「お手軽」ではありません。なぜなら考えさせる仕掛けがあり、それがニューストピックを題材にしながら読み解いていく構成を盛り込んでいるところです。本書の題名を見て下さい「経済の見方」ではなく「経済と社会の見方」です。経済のみで社会と無縁な経済学はあり得ません。そこに意思を持ったヒトがいるからです。しかもヒトが経済合理性だけで動くかどうかもテーマになってきます。

逆に言うと田舎の県庁等への公務員試験対策用としては全く役に立たないどころか、政治に対して疑問を抱かせてしまう刺激的な「アブナい」本と言えるかもしれません。政治に対しても何も疑問を持たずに毟られ集られるがまま何も感じない子、規制保護産業・補助金中毒産業に就職してヌクヌクしたい子たちには、読んで考えてみて欲しいところです。

(2)世界史や日本史から経済史と経済を読み解く

大学の経済学の良くないのはマクロ経済・経済史・経済学史などの分野に別々に論じられて相互討論があまりないところです(いわゆるタコツボ)。

しかし本書は、特に前半でマクロ・経済史・経済学史等の知識を広く動員しながら論じています。これは類書に見られない魅力です。それだけに最初の入門としては実は簡単ではありませんので、学生の方は年表や用語集を参照するとよいかもしれません。

世界史・日本史を単にそれだけをマニアとして楽しむのではなく、知識を動員して論じ、経済史から教訓を読み取る等の知的姿勢を持ちたいものです。私自身も以下のようなエッセイも書きもしましたが、経済だけ・歴史のみの知識ではなく幅広く捉えることが大事だと思います。

(3)経済学史・金融論を思想を交えて論じる

特に「補講」という形で言及されている部分が経済思想を重点的に論じています。ここが重要です。他の類書『経済分かる本』は単純に知識として解説している場合がありますが、ここを(1)のように現代的意義で考えるような投げかけがあります。そもそも経済学の父と呼ばれるアダム・スミスも哲学や倫理学から出発しています。

また、日本では少数派の(とされる)「オーストリア学派」からの観点で論じられていて貴重です。「少数派」と言うと経済学知らない方々は不安になりますが、考えてみれば1980年代までマルクス経済学が日本の大学では主流で当時の日銀の支店長講演等マル経そのままが飛び出た時代もあったと聞きました。経済学の「これが正しい、主流」等は、所詮そんなものです。多数派・主流派の議論だから経済予測が当たる、と言うことはありません。繰り返しますが自分で考えることが大事。そのための本書です。

なお、オーストリア学派で思い出しましたが、景気循環論でファンも多い嶋中雄二氏も若いときにハイエクを学んだようです。嶋中氏の予測の適否や循環論の内容はともかく、改めて言われてみると議論に影響受けている印象はあります。(蔵さんのこの本でも景気循環論が論じられています)

さらに蛇足で全然関係ないですが「悲観の乗宣」で有名な高橋乗宣氏はマルクス経済。お歳なのか最近見なくなり寂しいところです。

(4)動画を見てから本書を読むのもいい

最近では著作を著者自身がYouTubeに出ての紹介も多いです。本書についても著者蔵さんが同じく解説しています。特に後半の金融関係の部分は難易度はあるので動画と並行しながらもいいと思います。

また動画を見てから読むのも良いし、読んで頭に入らなかったら動画見てみるのも良いと思いますので、無料でもあり活用してみて欲しいところです。

私も他の著者や著作でも動画見てから読むと読書の速度が速くなるので、YouTubeも利用してもいます。

つらつら書いてみましたが、本書を契機にリバタリアンの思想を知りたい方はこちらも良いと思います。特に米国ではリバタリアンの発想も強く、「米国を知る」観点でも重要な点だと思います。

改めて本書を勧めたいところです。


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