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『無能の鷹』の描く「異端者のいる共同体」としての「会社」

ドラマウォッチャーの明日菜子さんと、ドラマ『無能の鷹』について対談した記事がReal Soundにて出ました!

ぜひ読んでください〜。本当に『無能の鷹』は仕事ドラマ批評としても秀逸なドラマだ。この対談で語ったとおりだけど。

それにしてもドラマ『無能の鷹』、なんだかしみじみと良いドラマだなと思うというか、しっかりやるべきことをやっている魅力的な作品だと思う。今期のドラマはリアルタイムで追いつけていないものもあるけれど、良作が多くて嬉しい。


1.『無能の鷹』と「迷惑をかける」主人公

『無能の鷹』とは、見た目はすごくしっかりしてて仕事ができるように見えるが、実はまったく仕事ができず、しかしやたら堂々としてしまっている鷹野が主人公だ。TikTokやショート動画の世界には「社内ニート」なんて流行語もある(そして割と憧れられている)が、社内で堂々とニートしてられる鷹野は原作漫画の連載が始まったときから人気のキャラクターだった。ドラマで演じる菜々緒さんが天才! ちなみに語り手は、鷹野の同期入社であり、おどおどして自信がない鶸田。ふたりの新卒ライフを描く物語である。

しかしこのドラマの良いところは、そんな鷹野を決して良い存在ーーつまり周囲が学びを得る存在ーーとしてほとんど描かないところにある。

私は安易に本作をつくろうとすると、「仕事って嫌だよね」「人それぞれ能力は違うよね」「できなくてもいいよ、自信持って自己肯定して生きることが大切だよ」といったメッセージをしのばせてしまうかもしれない、と思う。たしかに仕事は嫌だし、できないことは多いし、堂々としてる人には憧れる。が、その結果、迷惑を被るのはやっぱり周囲の人なのだ。

そこを本作はきっちり描いているのがすごいと思う。つまり、主人公は職場で迷惑をかけている。そして、主人公に優しくする上司は、決して会社からそのことで褒められたりしない。だがそれでも、共同体はまわっていく。ーーそういうことをこのドラマは描きだしている。

そう、会社とは、共同体なのだ。

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