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『私の生活改善運動』安達茉莉子(三輪舎)|読書感想文009
「生活改善運動」。耳慣れない言葉だった。しかし、選書眼に優れた書店でよく見かける本のひとつだった。何度も手に取り、買おうかどうしようか迷っては棚に戻すというのを繰り返していた。でもなぜか、すっと買えるお店に出会った。
目黒川沿いにある〈Space Utility TOKYO〉というフリーペーパーやZINEなどを中心に扱う独立書店だ。そこで買いたいという必然性を感じさせてくれるいい本屋さんだった。
欲しい本ほどなかなか買えない。この本を読むと、自分が変わってしまいそうだなという引力のある本は特にそうだ。難解なわけでも、値段が特段高いわけでもないのだが、自分にはまだ不相応だと思ってしまう本がある。この本はそういう存在だったのかもしれない。憧れに手を伸ばすためらいというか。「買ってもいいんだ」と思わせてくれたお店の存在は大きかったなぁ。
いったんページをめくってしまえば、面白くてするする一気に読んでしまった。まえがきで書かれている定義を引用すると、生活改善運動とは「自分にとっての心地よさ、快・不快を判別し、より幸福なほうに向けて生活の諸側面を改善していく自主的で内発的な運動」のことだという。
ちょうど『書く瞑想』や『エッセイストのように生きる』などを読んでいて、通底する価値観が似ていたためすぐ馴染めた。
本書の良いところは、単なる「指南書」「ハウツー本」ではないということ。ノウハウを語るとき、どうしても教えたがり目線になってしまいがちなのだが、著者の安達さんは権威にならず、あくまでも生活を改善してみたいと思った一実践者として、できないところからスタートし、できない自分を許しながら少しずつ進んでいく。その等身大の歩みが読者にベビーステップを踏ませてくれる。
横浜の妙蓮寺に引っ越して新生活を始めたり、日々のごはんを作ったり、服を作ったりと活動範囲は生活全般に渡る。特に印象に残っているのは、本棚を作っているシーンだ。生活綴方の書店員さんたちに手伝ってもらいながら、本棚を作ってしまう。いいなぁ。その発想はなかった。ずっしりとした木の感触がある本棚を手作りするなんて、本当の意味での贅沢や豊かさではないかと思った。本書は、そんな手作りの本棚にも馴染み、ずっと置いておきたくなるだろう。日常に寄り添う美しい本だった。
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