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『移動する人はうまくいく』長倉顕太(すばる舎)|読書感想文003

著者は多数のビジネス書を世に送り出した編集者だ。順風満帆のように見える出版社勤務を辞めて独立し、移動を繰り返すことで成長(成功)していったという実体験を基に、移動の重要性を説く1冊だ。

高円寺の〈文禄堂〉の新刊コーナーで「『考えてばかりで動けない』が消えてなくなる方法」という帯文が目に留まり購入。ビジネス書は自分の弱点を刺激されると手が出てしまう。

見る前に飛ぶタイプだったらスルーしてしまうと思うが、行動する前に考え込んでしまうタイプなので。本書によって「移動しなきゃ!」という気持ちに火が着いた。

本書が面白いのは切り口を「旅に出よ」ではなく「移動せよ」にした点だと思う。目的なんかなくてもいいから、とにかく移動すべしというのだ。旅先で特別な体験をすることを重視するあまり、どこで何をしようか悩んでしまいがちだったので、それならフットワークが軽くなりそう。

それでもまだ腰の重い私は、移動がいいと言われても新環境は不安。だからなかなか動けないのだが、本書では移動しないことのデメリットから説かれる。移動しないことによる恐怖を感じたのだ。どういうことか。

移動しないことのデメリットは、自分がわからなくなることだ。好き嫌いを感じることすらできない人が多いという。なぜならセンサーが壊れているから。なぜセンサーが壊れるのかといえば、同調圧力や意見を持つことが許されない風潮だから。

感覚を麻痺させないと日本社会に順応できないのだ。自分のことがわからなくなってしまうと「他人の欲望」を「自分の欲望」だと勘違いしてしまうという。これ自分のことだと思った。ずっと同じ環境下にいることの弊害だったのかもしれない。

まず定住や安定を求めた結果に陥った状態が説かれ、そこでの問題を解決するための移動なのだ。たとえば不安定感のある環境(独立や海外など)下では、サバイバル能力が否応なくあがるという。

「退屈な人生に嫌気がさしていると言いながら、安定も同時に求めている人が多い」と著者は指摘する。現状維持を強く求めてしまう私たちの人生を、強制的に移動することで変化させていく。

最後の章では「移動体質をつくる30のアクションプラン」が提示される。「通勤経路を変える」という比較的簡単に行えるものから、「1日1冊読書する」という中級レベル、そして「年4回は海外へ、年4回は国内へ」というハードモードまで。

「そんなに旅行するの大変だなぁ」と反射的に思ってしまったが、日本のパスポートは、ビザなしで194ヵ国に行ける世界最強のパスポートらしい。そんな自由を手に入れられるのに、取得率は17%だという。もったいないパワーを発揮して、行ける時に行っておきたいなぁ。

本書全体を通して「迷うな、悩むな、時間の無駄。どうせ思いどおりになんかいかない。だったらまずやれ。選択肢を増やすのが人生戦略において一番重要だぞ」というようなメッセージを受信した。

ページを閉じたら、ふと思い出した。90年代に始まった伝説的な北海道ローカル番組『水曜どうでしょう』の「サイコロの旅」という企画。長距離バスで何時間もかけて移動し、旅先の滞在時間ほぼゼロ。トンボ帰りしてきたりするのが最高に楽しかったじゃないか。どうでしょうは旅バラエティではなく移動エンタテイメントだった。

目的地だけでなく、道中を楽しんでみたい。

以下、本書から得られた知見の一部を箇条書きでまとめておきたい。

・意志の力で変えるのは難しいのでまず移動して環境を変えよう。
・人は「環境→感情→行動」の順番で行動する。
・環境を変えない限り、結局元の状態に戻されてしまう。
・人生を変えられないと悩む人は、移動が少ない傾向にある。
・過去との整合性で生きている。過去をベースにした自分のキャラクターを新しい環境で変えてみる(高校デビューとか)
・定住や安定に疑問を持つ。権力者にとって定住は都合がいい。
・無意識に心地良いので会社にいると何も見えなくなってくる。
・誰と、どこで、いつ働くのかを決められるのが独立の良いところ。
・最長でも1年後に独立すると宣言する。決めないと動けない
・退職とともに引越しもすると効果大
・脳は新しいことが大嫌い。新環境が不安なのは脳がその役目を果たしているだけ。
・ドリームキラーが現れるが、身近な人が役割を演じているだけ。
・移動体質に変えるためたくさんの初体験をしよう。
・やりたいことは探すものではなく出会うもの。役割に気づくこともある。
・「何をやりたいか」よりも「どうありたいか」にフォーカスしてみる。
・生きていく上での軸ができると人は能力を発揮し始める。
・現実を動かすのは「ワクワク」ではなく「コツコツ」淡々とやろう。
・人生はアウトプットで決まり、アウトプットはインプットで決まる。
・クリエイターエコノミーの到来でコンテンツビジネス(特に教育系)に注目。

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