見出し画像

「自己愛」という訳語について

「自己愛」という言葉は不思議である。「自分自身を愛する」というと肯定的な響きがあるのに、「自己愛性パーソナリティ障害」という病名まである。どういうことだろうか。

ひとつ考えられるのは、英語に「自分自身を愛する」という言い回しが存在しないのではないかということだ。何十年も前のこと、某英会話教室でネイティブの先生からこう指摘されたのである。

「英語では、"He loves himself."とは言いません。言うとしたら、病的な場合です」

そこで「それでは、自分のことが好きな場合はどう表現すれば良いでしょう?」と質問すると、

「そうですね、"He likes his own way." という言い方はあります」とのことだった。つまり、「自己愛」の原語である narcissism (ナルシシズム)には否定的な意味合いしか存在しないようなのである。

筆者は機能不全家庭に育ったため十分な愛情を知らず、ナルシシズムに陥っていた時期が長かった。当時を振り返って思うのは、ナルシシストというのは自分が大嫌いだということある。だからこそ本当の自分を隠してごまかすために自分の属性(容姿、学歴、ブランド品、金銭、地位など)をひけらかして何とか自分の存在意義を保とうとするのだ(それが周囲からはあたかも、自分自身が大好きなように映る)。しかも大抵の場合本人は、そうした自分の心理に無意識である。これはとても苦しい。

こういう人が、ありのままの自分を受け入れられるようになれば治癒は近いだろうが、そこに至るには生き方の根本姿勢の変革が必要と思われる。

ともあれ、「自己愛性パーソナリティ障害」よりは「自己陶酔パーソナリティ障害」とか「自己耽溺性パーソナリティ障害」などの方が適切な気がする。「自己愛」という字面が、日本語では肯定的に捉えられかねないと思うのだ。

私の拙い記事をご覧いただき、心より感謝申し上げます。コメントなどもいただけますと幸いです。もしサポートいただけました際には、創作活動に有効に使わせていただきます。応援のほど、どうぞよろしくお願いいたします!