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「阿吽」その哲学と調和の美学ー書道作品【飛翔】ー
こんにちは。書道家の村松歩実です。
なぜ「阿吽」という概念に惹かれたのか、自分でもはっきりとはわかりません。しかし、循環をテーマに書の制作を続ける中で、相反する要素が共存し調和するこの世界に強く魅了されてきました。
書道作品においても、静と動、力強さと繊細さ、黒と白という対極の要素が一つの作品の中でバランスを取りながら存在しています。こうした考えのもと、「阿吽」の概念を取り入れた作品を制作することにしました。
書道作品【飛翔】
2025年最初の個展。この1年がますます、飛ぶようにワクワクする1年となるようこの言葉を書きたいと思いました。
72cm×100cmの大きなサイズを2つ挑戦です。今回も漆で書いています。なぜ漆で書いたのか、こちらの記事もあわせて是非お読みください。
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作品「飛翔」各72cm×100cm 2024年
この熟語は飛ぶ、と翔ぶ、でできています。
この作品で最も伝えたいのは、それぞれ独立して完結できるが、二つが揃うことでより大きな意味を持つということです。
対極と調和
それぞれ独立して完結できるが、二つが揃うことでより大きな意味を持つ。これは、言葉や表現の枠を超え、すべてのことにも通じるものがあります。たとえば、夫婦やパートナーシップも、個々がしっかりと自立しながらも、共にいることでより強く、豊かになる関係が理想的だと考えています。
二つの要素が調和する時、それは単なる足し算ではなく、新たな存在を生み出します。例えば、二人の人間が一緒にいる時、単なる「1+1=2」ではなく、その間にある空気を1とカウントし、関係性が生まれることで「3」にもなり得ます。逆に、完全に密着してしまうと、二つの個が一つに溶け込み、かえって「1」になってしまうのです。これは、書道作品における空間の使い方にも似ています。
阿吽の哲学と調和
阿吽とは物事の始まりと終わり。出す息と吸う息。
今まで私は阿吽といえば、金剛力士像やシーサーのような対となる2つのものという認識でした。
しかし今回改めてその意味を考える中で、出す息と吸う息?そのその通り道って必ずあるよね?それも1だ。とかなり強く合点し、確信しました。
先述の〝調和〟と同じ理解ができたのです。
対となるものがこの世の中には調和して存在している。そして、すべての物事に必ず対となるものがあるんだと。
阿吽と書
阿(あ)は物事の始まりを、吽(うん)は終わりを象徴しますが、終わりは新たな始まりでもあります。この連続性は、生命の営みや自然界のサイクルとも通じるものです。書道においても、一筆一筆がつながり、途切れることなく流れるように続くことで、一つの調和が生まれます。循環するエネルギーの中で、相反するものが対立するのではなく、互いを補い合いながら新たな形を生み出します。阿吽と書の世界で通じるものに気づくことができ、より一層、書が好きになりました。
さいごに
阿吽の思想を取り入れたこの作品を通じて、見た人が「二つの対極が共存することで生まれる美しさ」について考えるきっかけになればと願っています。「飛翔」は単なる書道作品ではなく、人間関係に通じる調和の美学を表現したものです。古来から大切にされている阿吽の世界を通して、対極の要素が共存し、高め合うことの美しさを感じ取っていただければ幸いです。