ペットロスの方に寄り添う「退屈をあげる」坂本千明
七年前の四月に愛猫を亡くして以来、いろいろなペットロス本を読むようになりました。
その中でも大多数の猫飼いの人にフィットするであろう本が、坂本千明さんの「退屈をあげる」です。白黒で刷られた版画タイプの絵本ですね。
この本を知ったのはイシデ電さんの漫画「ポッケの旅支度」でした。ペットの葬儀屋の本棚の前で、イシデさんがお茶を飲みながら「私だったら坂本千明さんの退屈をあげるを置くなぁ」と物思いにふけるシーンがあり、気になりました。
保護猫がたどるオーソドックスな猫生
雨の中、弱っている猫を家に連れ帰り、保護する。その家にじゅうぶん適応し、野良猫ではなく飼い猫となる。
やがて病気になり、天に召される。
という、大多数の飼い猫がたどる猫生を、保護された猫の目線から描いている、それだけの内容です。
退屈をあげる、というフレーズが秀逸
実際に猫を飼っている人はよくわかると思いますが、猫を飼っていてもたいしたイベントや事件はそうそうないです。もっともドラマチックなのは保護した瞬間で、初めての病院、ワクチン、去勢手術とすぎれば平穏な日常が続きます。完全室内飼いにしてると特にそうです。
本書から抜粋すると
ごはんたべて
ねて
うんちして
くり返し
飼い主的には、そんな猫生で満足だったのだろうか? という罪悪感に似た葛藤がぼくにもありましたよ。ええ。
ですが、最後にこう続きます。
この愛しい退屈は
空のうえでもきっと
ずっとつづくのだと思う
うちの愛猫もそう思っていてくれたのだろうか。室内飼いの猫はパトロールや冒険もできないので生活パターンが決まっている。もはやそれは平穏を通り越して退屈ですらあったのかもしれない。だけど危険な外の暮らしに比べて、退屈に愛おしさを感じてくれていれたらなと願うばかりです。
最後に
あとがきとして、作者の坂本千明さんがモデルになった猫との馴れ初めから思い出などを5ページほど綴っています。そっちのほうもまた、心にしみます。