『アメリカの鱒釣り』 リチャード・ブローティガン/藤本和子 訳
とてもおもしろい本だった。一本の長大なロードムービーをコマごとに切り取り、マスキングテープでデコレイトして、あるいはたっぷりの書き込みを加え、ひとつのスクラップブックを仕立てあげるような、不思議な魅力に満ちた一冊だった。
【追記】
初めて読んだときのことを、柴田元幸は文庫本の解説で「解放感」と語り、村上春樹は雑誌BRUTUSで「目の前がすうっと開けるような素敵な気分」と書いている。これは多分に、刊行当時(アメリカでは1967年、邦訳は1975年)の空気というものが影響しているのだろうと思う。
しかしながら、本作は今なおその輝きを失っていない。むしろ、直接的で真っ直ぐな表現に溢れた昨今において、輝きは増している。ときには「ちょっと何を言っているのかわからない」と笑ってしまうような、そのユーモラスで変幻自在な文章に、己の未知なる想像力が「新発見」されるのではないか。