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夢を見ることば

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短編集。シュルレアリスム絵画に着想を得て。 まるで夢を見ているように、不思議で不可解で幻想的で、時々ちょっと不気味な、そんな雰囲気のお話が書けたらいいなあと思います。
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水銀の男

水銀の男

その男には、顔がなかった。鉄のようにつるりとしたのっぺらぼうで、灰色のコートに身を包み、私が帰る夜道の街灯の下に、ただじっと立っていた。
少し俯いて、どこか寂しそうだった。
私が横を通り過ぎても、身じろぎひとつしなかった。

初めてその男を見た晩から、雨が降っている夢を見るようになった。
どこかの町でもなく、山や海でもなく、灰色の果てのない世界に、雨だけが降っている夢だ。
頭上を見上げても足元を見

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残像のゆくえ(2/2)

残像のゆくえ(2/2)

中学を卒業すると、村を出て町の進学校へ通った。高校を出てからは、さらに都心にある大学へ進学した。就職を機に上京し、いつしか村へはほとんど帰らなくなった。
大人になるにつれ、残像たちとの距離も次第に離れていった。
満員電車の中で窮屈そうに変形しているものや、スクランブル交差点の途中で立ち尽くしているものもいたが、残像たちに気を配るには、東京はあまりにも生身の人間が多すぎた。
一度も交流したことはない

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残像のゆくえ (1/2)

残像のゆくえ (1/2)

幼い頃、私は生き物の残した残滓が見えた。
たとえば、ふと宙を見上げると、鳥が飛んでいった跡が飛行機雲のように見えたり、切られてしまった大木の切り株の口を、名残惜しそうに取り巻いているのを目にした。よく動き回る犬などを見ていると、実像が掴みにくくなるほど、残滓がそこらじゅうに散って見えた。
人は、とりわけ濃い残滓を残す生き物だった。
人が去って間もない残滓は、ほとんど人のかたちを留めたまま残っていて

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霧の棲む土地

霧の棲む土地

私は霧の中を歩いていた。
誰かが前を歩いているような気がしたが、その人影はぼんやりと霧の中に隠されて、誰だか分からなかった。しかしどうやら、霧の向こう側から、無言で私を誘導しているらしい。
私は安堵して彼のあとを追った。
霧は深く、宙に漂う水滴一粒一粒がやけに大きい。魚の群れのように、水滴が空中で波をつくり、音もなく蠕動している。霧にまかれているはずなのに、不思議と肌は湿っていなかった。足にも感触

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都心の夢

都心の夢

人疲れした夜は、誰もいない街を想像する。
東京という大都会に、人が忽然といなくなった、静まり返った夜。

都心から郊外へ、血脈のようにはりめぐらされた線路の上を、さびた鉄の音を軋ませながら、無人の電車が走っていく。
繁華街のネオンは、招く客がいないのも無頓着な様子で、ただこうこうと光を放っているままだ。
入り組んだ首都高はオレンジ色の光に照らされ、東京タワーは明々と夜闇に浮かび上がり、そびえ立つス

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