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物書き。アートに関するブログもやってます。https://artinspirations.hatenablog.com/ twitterもフォロー大歓迎です!

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マガジン

  • 旅の感触

    旅先では、そのとき・その場所でしか書けない文章が生まれます。 五感が鋭くなって心が開いていくような、あの独特の感触は、何物にもかえがたい貴重な記憶。 それらを忘れないように、手書きの旅行ノートから文字起こししたエッセイ集です。

  • 考えごと

    日々考えたこと・感じたことのエッセイ集。

  • 夢を見ることば

    短編集。シュルレアリスム絵画に着想を得て。 まるで夢を見ているように、不思議で不可解で幻想的で、時々ちょっと不気味な、そんな雰囲気のお話が書けたらいいなあと思います。

最近の記事

夜明けの空と町に知る -尾道② 古寺と千光寺公園-

(旅ノート1冊目より、2011年2月6日 早朝) 古寺をめぐる。 路地、家々の中を通り抜け、いくつもの古寺がふいに姿を現す。 古(いにしえ)が今の民の暮らしに溶け込み、淡々と建っている。 脇道から寺に入り、正門まで歩くと、眼下に尾道の街が広がった。 明けたばかりの太陽の光が、空に薄紫の絹のような朝焼けをつくり、街は朝靄にうっすらとかすんでいる。 時折車や電車の音が通り過ぎ、その間も、背中の方から鳥やカラスが澄んで抜けるような声で鳴く。 寺には、墓が多い。古びた寺と、新旧様

    • 縁側の思索 -尾道① 志賀直哉旧居にて-

      青春18きっぷを使った2泊3日の旅。 1泊目は尾道、2泊目は別府。 旅ノートをつけるようになったのも、この旅からだ。 今ではもう旅ノートも10冊目に突入しているが、1冊目を読み返すと、今でも、不安と自由に圧倒されて研ぎ澄まされた、若い自分の感性に出会うことができる。 世間知らずで、不器用で、感情的で、不確かで、つまらない悩みごとばかり抱えて滅入っていた頃。 できれば忘れてしまいたい幼さではあるけれど、あのときにしか書けなかった言葉、あのときにしか気づけなかった感性が、その土地

      • 書くための熟成と調理

        最近、インプットとアウトプットのバランスに苦心している。 料理を作るためには食材が要るように、何かを書くためには、それなりのストックが必要だ。 それを「引き出しをたくさん持っておく」と言う人もいるし、倉庫に貯蔵するイメージや、巨大な箱にごちゃまぜにして放り込むような感覚をもっている人もいるかもしれない。 ようは「溜め込んで寝かせておく」ということ。 溜め込むものは何でもよくて、ちょっとしたフレーズとか、ふと思いついた比喩表現、書きたいキーワード、具体的に何に使えるかも分

        • 生きている小ささ

          快適で便利な都会に暮らしていると、ときどき、生きていることを忘れる。 屋内はいつも適温に保たれ、外では常に人の目に触れながら出歩き、一人の自室ではインターネットを介して外界と接続する。 自分をプロデュースしてオリジナル化したり、自分を始点として世界へアクセスしたりするうちに、自分という存在感がどんどん膨張して肥大化し、社会とのバランスを保つためのコトやモノでいっぱいになっていく。 それ自体は決して悪いことではないし、必要なことでもある。 なぜならそうでもしなければ、同種の

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        • 旅の感触
          5本
        • 考えごと
          7本
        • 夢を見ることば
          5本

        記事

          水銀の男

          その男には、顔がなかった。鉄のようにつるりとしたのっぺらぼうで、灰色のコートに身を包み、私が帰る夜道の街灯の下に、ただじっと立っていた。 少し俯いて、どこか寂しそうだった。 私が横を通り過ぎても、身じろぎひとつしなかった。 初めてその男を見た晩から、雨が降っている夢を見るようになった。 どこかの町でもなく、山や海でもなく、灰色の果てのない世界に、雨だけが降っている夢だ。 頭上を見上げても足元を見下ろしても雨だった。 まだ始まったばかりの未知の惑星のように、地もなく天もなく、

          水銀の男

          情景の群れ

          初めての一人旅は、関西から九州へ、ひたすら鈍行列車に揺られて、車窓から外を眺める旅だった。 朝早く起きてこの時間に乗る、この時間に乗り換える、と計画していた電車の時刻にはことごとく遅れ、まあそれもいいかと一人旅の気楽さで電車に揺れる。 カタンコトンと線路の感触を感じるくらいの鈍行の速さは、人間らしい呼吸になじむ。人の少ないローカル線のボックス席に腰を落ち着け、本を読む。 時折目をあげると、窓からの景色は、ただただ田畑や民家が連なる広々とした田舎の風景。冬だったから、山は枯れ

          情景の群れ

          あけましておめでとうございます。 もう長いことnote沈黙していましたが、今年はちゃんとこまめに書き物していこうと思います。文学賞に応募した落選作品も今後はどんどんあげていきたい。 本年も、再びよろしくおねがいします

          あけましておめでとうございます。 もう長いことnote沈黙していましたが、今年はちゃんとこまめに書き物していこうと思います。文学賞に応募した落選作品も今後はどんどんあげていきたい。 本年も、再びよろしくおねがいします

          仕事のパートナーも、心のパートナーも、人生のパートナーも、この世界の絆は、本当はもっとゆるやかなものなんじゃないだろうか。男女とか夫婦とか、枠にとらわれず、ただ点々をつなぐ線だけがあって、その線に種類なんて概念はない。ただ、ひとを大事にして、自由に生きていきたい。それだけ。

          仕事のパートナーも、心のパートナーも、人生のパートナーも、この世界の絆は、本当はもっとゆるやかなものなんじゃないだろうか。男女とか夫婦とか、枠にとらわれず、ただ点々をつなぐ線だけがあって、その線に種類なんて概念はない。ただ、ひとを大事にして、自由に生きていきたい。それだけ。

          残像のゆくえ(2/2)

          中学を卒業すると、村を出て町の進学校へ通った。高校を出てからは、さらに都心にある大学へ進学した。就職を機に上京し、いつしか村へはほとんど帰らなくなった。 大人になるにつれ、残像たちとの距離も次第に離れていった。 満員電車の中で窮屈そうに変形しているものや、スクランブル交差点の途中で立ち尽くしているものもいたが、残像たちに気を配るには、東京はあまりにも生身の人間が多すぎた。 一度も交流したことはないくせに、残像を無視してすれ違うたびに、なぜかかすかに心が痛んだ。 私は彼らを愛

          残像のゆくえ(2/2)

          残像のゆくえ (1/2)

          幼い頃、私は生き物の残した残滓が見えた。 たとえば、ふと宙を見上げると、鳥が飛んでいった跡が飛行機雲のように見えたり、切られてしまった大木の切り株の口を、名残惜しそうに取り巻いているのを目にした。よく動き回る犬などを見ていると、実像が掴みにくくなるほど、残滓がそこらじゅうに散って見えた。 人は、とりわけ濃い残滓を残す生き物だった。 人が去って間もない残滓は、ほとんど人のかたちを留めたまま残っていて、稀に顔まで判別できるほど鮮明に見えるものもあった。 彼らは滓と呼ぶにはあまりに

          残像のゆくえ (1/2)

          図書館で借りた古い書籍に、ふと、小さな羽虫が挟まってぺったんこになっているのを発見した。 いつ虫が入り込んだのか不明だけど、この虫が今後、この本が存在する限りずっとこのページに貼り付いている可能性もあるわけで。 「本のなかで化石化する羽虫」って何だかロマン。 本は時を超えていく。

          図書館で借りた古い書籍に、ふと、小さな羽虫が挟まってぺったんこになっているのを発見した。 いつ虫が入り込んだのか不明だけど、この虫が今後、この本が存在する限りずっとこのページに貼り付いている可能性もあるわけで。 「本のなかで化石化する羽虫」って何だかロマン。 本は時を超えていく。

          街を「美術化」する

          通勤途中の道は、田舎育ちの私にはひどく都会的で、いつになっても慣れない。 似たような服装をしたビジネスパーソンたちが、ビルが立ち並ぶオフィス街の方角へ、早足で闊歩しながら進んでいく。 広い通路はスーツや色の濃いコートで埋め尽くされ、まるで黒い運河が流れていくよう。 その流れに、当の私もあれよあれよと組み込まれていくのだが、キャリアウーマン然としてコツコツと足音を響かせながらも、自分が街という巨大な機械の一部になっていくような心地がして、いつも少し顔をしかめて歩いている。 で

          街を「美術化」する

          優しい帰路

          旅の帰路、山間を走る電車の車窓から、黄昏を追う。 夕日が沈むと、山々は次第に暗くなり、ガラス窓を挟んだ闇の向こうに姿を消していく。 昼間は圧倒的だった自然の大きさが、徐々に遠のいていく。 木々の輪郭や山々の境界が曖昧になり、一緒くたになって、代わりに民家の光がぽうと灯りはじめる。 人間の生活が、遠慮がちに、光を灯して浮き出してくる。 時折、カーテンを開け放したままの民家や、高架沿いの小さな企業ビルがあったりして、その中にいる人の営みやしごとが見えることがあり、何だかじんわりと

          優しい帰路

          図書館でCDを借りられることに今更気づき、マイケルジャクソンのアルバム「This is it」を発見して意気揚々と借りてウォークマンにうつした。 それからしばらく、会社に行くときはBeat Itを聴きながらコツコツと歩く。 何でもできそうな気がしてくる。

          図書館でCDを借りられることに今更気づき、マイケルジャクソンのアルバム「This is it」を発見して意気揚々と借りてウォークマンにうつした。 それからしばらく、会社に行くときはBeat Itを聴きながらコツコツと歩く。 何でもできそうな気がしてくる。

          世界の額縁

          12階にある会社の休憩室の窓から、東京の街並みが見える。 ビルが立ち並び、線路が行き交い、巨大なクレーンが首をもたげ、血脈のような道路がとめどなく流れている。 雲が低く垂れこめ、毛布のように幾重にも折り重なって空を覆っている。 灰色の街は窓枠に切り取られ、映画のスクリーンのように見える。 いつもパソコンのスクリーンばかりを眺めているからか、その切り取られた風景は、陰気な曇天だというのに不思議と明るく、清々しく感じられた。 コーヒーを片手に眺めるうち、ふと、クレーンの脇に隠れ

          世界の額縁

          土地に近づく

          一人旅が好きだ。 もちろん誰かと行くのも楽しくて好きだけれど、 あまり知られていない場所や、観光客が目を向けないような町、独特なその土地の「匂い」がするところには、一人で行きたい。 誰かと行くよりも、一人旅は、その土地に近づく。 友達や家族と行けば日常も一緒についてくるけれど、一人では、まさにそのとき・その土地で起きている「いま」に圧されてしまって、携えてきた日常はたちまち小さくなる。 そうすると、新しいものが、決壊した川のようにどうどうと入ってくる。 写真には収められな

          土地に近づく