立春(二十四節気)・東風解凍(七十二候)と雙清
例年2月4日は二十四節気の立春。旧暦では一年の始まり、つまり正月です。ちなみに令和3年の立春は123年ぶりの2月3日でした。年賀状に新春と書くのもその名残といわれています。暦便覧には『春の気立つを以って也』、七十二候では「東風解凍(こちこおりをとく、はるかぜこおりをとく)」です。暖かい東の風が吹き始め、凍っていた池や川の氷が溶け始める時期です。寒さのピークが過ぎたことを教えてくれます。つまり、立春直前が最も寒い時期といえます。「東風解凍」は五経の一つ、礼記の月ごとの季節の変化が纏められている巻六「月令」に
東風凍を解き、蟄虫始めて振(うご)き、魚冰(こおり)に上り、
獺(だつ)魚を祭り、鴻雁来たる
と書かれています。紀貫之もこれを踏まえて、
袖ひちてむすびし水のこほれるを
春立つけふの風やとくらむ
(古今集 紀貫之)
と詠っています。「春立つけふの風」とは立春に吹く風、まさに東風ですね。
立春には「立春大吉」という札を掲げる風習があります。これは、昔から禅寺で節分の早朝に立春大吉の札を貼ることが起源で、「立春大吉」は縦に左右対称、裏から見ても読める。これを貼ることで厄除けになるといわれています。
煎茶席でも春を感じさせる盛物を飾りたいですね。「雙清(そうせい)」は水仙と梅を取り合わせた盛物です。雙清とは清いものが二つ並ぶという意味で、心と行いに穢れがないことを意味します。唐の詩人杜甫の詩、「屏跡」で雙清を述べています。
用拙存吾道(世渡りは下手だが自分の道は保っている)
幽居近物情(幽居がその物情に近づいている)
桑麻深雨露(桑や麻は雨や露を受けて深くなり)
燕雀半生成(燕や雀の半分は育ち巣立っていく)
村鼓時時急(早く打ち鳴る村の太鼓の音が聞こえる)
漁舟個個輕(漁舟は軽やかにあちらこちらに浮いている)
杖藜從白首(こんな風景を見ながら
あかざの木の杖をつき髪は白くなった)
心跡喜雙清(しかし雙清であることがなによりうれしい)
(杜甫「屏跡」三首の二)
暦の上での新年、心も行いも清く迎えたいものです。