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『関心領域』黒と白と赤と

 先日、意を決して観てきました。

 最初に告知を観たときはホラーかと思いました。
 実際、意味が分かったら怖い話だと思います。

空は青く、誰もが笑顔で、子どもたちの楽しげな声が聞こえてくる。そして、窓から見える壁の向こうでは大きな建物から煙があがっている。時は1945年、アウシュビッツ収容所の隣で幸せに暮らす家族がいた。

公式ページよりあらすじ

 告知内容だけの概要(ネタバレなし)は以下の通り。

  • アウシュビッツ収容所では大量殺戮が行われている。

  • 塀を越えた隣には軍人の家族が住んでいる。

  • 収容所からは叫び声・そしておそらくは異臭が漂っている。

  • 軍人の家族は隣には関心を示さず暮らしている。

 少なくとも私は、このような情報を以て、映画を視聴しました。既に得た内容がヘビーなだけに、緊張しながら。

※この先、目次の「内容に関しての感想・考察」には、ネタバレあります(特に「単なる戦争映画ではない」)。(シーンの具体的なネタバレではなく、テーマの考察の部分)。未鑑賞の方で気になる方はご注意ください。

アテンションプリーズっ!

個人的な総合評価

 ……。
 想像の斜め上をいく映画でした。
 一般的には賛否両論ということですが、個人的な評価を、ここに下したいと思います。

満点星~!

 これはすごい映画ですね……。
 全体を通して淡々としていて、かつ説明ゼリフが極端に少ない。けれども伏線は至る所に散りばめられている。「つまらない」と「興味深い」が表裏一体のコインとなったような作品だと思いました。
 そして私のコインは「興味深い」を向いたようです。


これから観る方にお勧めのスタンス

 観た人がどちら側の感想になるのか、その境目となる基準は、おそらく本人の姿勢が「受動的」か「能動的」かのどちらかで違う気がしました。

 この映画を観るにあたって、ホロコーストを含む戦争の恐ろしさや世界平和の訴えを、教わりたい・聞いていたいと受け身になっていた人にとっては、さぞつまらない映画だったろうと思います。

 この映画は何を一番伝えたいんだとか、感心領域ってなんなんだとか、しつこいくらいに映画に問いかけ、考え抜き、監督の脳みその中身とかすべての謎を暴いてやるくらいのギラギラな積極性があるほど『関心領域』の虜になるのでしょう。

 学校の授業で例えるなら、ただ先生の板書を書き写して話を聞くだけではなくて、わからないところを手を挙げて質問するくらいの根性は出した方がいいと思います(あくまで心の中でね!)。
 この先生……じゃなくて映画は「自分で答えを見つけなさい」って塩対応をしますが(笑)、諦めなかったら、それなりに自分の納得のいく解釈は閃くはずです。


内容に関しての感想・考察

 先生……じゃなくて映画に塩対応されたので、観終わった直後はすごくモヤモヤしていました。
 頭の中を灰色の雲が覆っている感じ。
 よく見えない視界で、パズルのピースを繋ぐ作業をしている感じ。

 正直、一見では訳の分からないシーンもありました。
 ただ、映画レビューサイトを覗けば、色々な方が、私が見逃したり理解できなかったシーンを説明したり、考察しているコメントを読めます。
 そこでの情報で捕捉したり、本当にそうなのかを考えながら、私なりの落としどころを探しました。


とにかく音にこだわっている

 映画開始3分で、音にやられました(笑)。
 この作品はとにかく音響にこだわっています。とはいえ、音楽には特化していません。BGMはほぼ無いと言っても過言ではないですね。自然音だとか、収容所からの不気味な重低音が、映画全編で鳴っています。
 エンドロールの音楽ですら、クセ強め(笑)。

 舞台となる家から収容所の外観は見えるものの、収容所の内観の映像はほとんどありません。だからこそ音に拘っているのでしょう。「見せずに聞かせる」手法は徹底しており、この映画の個性が際立っていると感じました。
 逆にある意味、映像にも拘っているとも捉えられる??

 決して気持ちの良い音は入っておりませんが、もしも観るなら、劇場か、性能の良いヘッドフォンなどで視聴するのがお勧めです。


単なる戦争映画ではない

 そもそも既出の名作で、戦争を取り扱った映画というのは、制作陣(主に監督)の戦争の解釈や意見が入っていると思うんですよね。

  • 過去の戦争ではこんな悲惨なことがあった

  • 戦争中はあらゆる尊厳が失われる

  • だから戦争は繰り返してはいけない

  • 我々は世界平和を叫ぶべきだ

 こういった明確な主張は、映画の中にはありません。
 少なくとも、前面に出してきていないように、私には感じられました。

『関心領域』の監督、ジョナサン・グレイザーさんはユダヤ系イギリス人です。ホロコーストを憎んでいるだろうし、制作テーマとして「戦争や世界平和」は込めているのだろうとも思います。

 ただ、前面ではない……よなぁ……。
 私だけかもしれないですが、映画全体を思い返して「これは戦争映画だ! ホロコーストの映画だ!」と言ってしまうと、映画がピンボケしてしまう気がするんです。

 じゃあ何ならピンボケしないの?
 そう自問自答すると、やはりタイトルでもある『関心領域』という言葉に焦点がくるんですよね~。

 そもそもずばり「関心領域」はどこなのか?

 アウシュビッツ収容所の中か?
 主人公たちの住む隣家か?
 主人公の働く軍の内部か?

 誰の視界が「関心領域」なのか?

 姿なき犠牲者であるユダヤ人か?
 主人公たち家族か?
 ヒトラー軍か?

 それとも観ている私達??

 映画を観ながら真の「関心領域」を見極めようとしていた私は、ふと、自分の方が観られている感覚に陥りました。
 まるで映画の方が、私を観察しているような……。
 気のせいですよね~(笑)。でもその不思議な感覚が、今の私にこれを書かせているのかもしれないです。

 ホロコーストは終わったかもしれない。しかし現実では、悲劇を取り巻く「関心領域」そして「無関心領域」は、世界のあちこちにあります。

 人の数だけ「関心領域」があり、そのゾーンも様々。自分の形はどうなのか、他人はどうなのか、この映画はそれを問おうとしている気がします。だから、戦争やホロコーストだけの焦点では足りないと思うのです。戦争を含む大きな根っこを掘り起こした問題提起作品。

 そうこれは、観て終わるのではなく、考えて自分の結論を出して、はじめて終わる映画なのでしょう。
 深淵と見つめ合うかのような映画……?
 たぶん、流れてくる映像を受けて、自分がどう感じたのか、つまりどう考えるのかをぼんやり夢想するのが、一番いい楽しみ方だと思います。
 没頭上等です。「関心領域」の中では。


ご覧いただき有難うございます!

 具体的なネタバレもないのに、長々と語り込んでしまいました。でも、書きたいことは書けたかな~と一息ついてます。

 ネタバレありだったら、もっと長かったかな?(笑)

 ここまでお読み頂いた方、本当にありがとうございました! もしも映画を鑑賞された方でご意見がありましたら、コメント頂けると嬉しいです。
 それではまた、ご縁があれば♪


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