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名曲A Whiter Shade of Pale 「青い影」の解釈(1/2)

表紙写真 A Whiter Shade of Pale (Procol Harum)ドーナツ版 (Wikipedia)


はじめに

6年前の2018年10月元同僚と二人で言語コミュニケーション勉強会をしました。「楽しくやろうや」ということで、筆者は名曲"A Whiter Shade of Pale"(「青い影」プロコル・ハルム)を例に、言語の状況的解釈で生ずる多義性と世代間(intergenerational)または通時的(diachronic)コミュニケーションについて問題提起しました。本稿はそれに基いて脱稿したものです。

1967年にヒットし今でも耳にするRolling Stone誌歴代57位

1967年にリリースされて以来、今でも耳にする曲で、500 Greatest Songs of All Time(Rolling Stone誌)には57位にランクされています。58位がMichael Jackson の”Billie Jean“ですからいかに凄いか分かります。

まず、以下の英語の歌詞を見ながら、A Whiter Shade of Pale-Procol Harumをオリジナル・バージョンで聞いてください。

A Whiter Shade of Pale 歌詞

読者も一度は耳にしたことがあるでしょう。筆者自身、1968年から1978年の10年間の留学生活を挟み今に至るまで何度も何度も聞いてきた曲です。その人気は衰えずリリースから約40年後の2006年にはDenmarkのLedreborg Castle野外ライブでデンマーク国立オーケストラおよび合唱団と共演しています。Procol Harum - A Whiter Shade of Pale, live in Denmark 2006 視聴回数 はなんと25,490,233 回(2018年10月時点)で、今でも根強い人気を保っていることが分かります。(*2)

歌詞の意味は謎だらけ、歌詞の解釈を巡って世代間で活発なコミュニケーション

メロディーはとても平易で分かりやすいのですが、その反面、歌詞は謎だらけで難解です。“A Whiter Shade of Pale lyrics meaning”のキーワードで検索すると夥しい数の記事が検出され、リリースされてから50年余経った現在、様々な解釈が入り乱れ、これと断言できるものは一つもありません。別の見方をすると、この曲をめぐり世代を超えた活発なコミュニケーション活動が展開されてきたことを物語っています。コミュニケーションとは何か考えるにはとても良い題材になると考えて勉強会のテーマに取り上げました。

コミュニケーションでは、(1)メッセージを生成し発信、(2)それを受信して解釈して反応として発信、(3)反応を受信し解釈して反応として発信、こうしたサイクルが当事者間で繰り返されます。(*3)どの過程でも物理的、心理的、社会的状況が作用するので、生成されるメッセージ、その解釈、反応は必然的に多種多様になります。

特に、ポップ・カルチャーは、古今東西、そうした多様性を自由に満喫できる場です。今回取り上げたこの曲をめぐって多種多様な解釈が生じるのは当然です。メロディーはスムーズで分かりやすく人を惹きつけますが、対照的に歌詞は難解でまるで突き放すかのようです。しかし、このメロディーの耽美さと歌詞の難解さが微妙なバランスを保ち、多くの人たちを魅了し、解釈が解釈を呼んできたのでしょう。敢えてたとえるなら美しくもトゲを持つバラのようです。

作詞したKeith Reidは、後述する2008年のインタビューで、作詞当時まだ19才で淡い恋愛体験を感じたまま描写しただけであったと述べています。しかし、この曲に取り憑かれた聞く側は、 Reidの意図が明かされた今も以前と変わらず、それぞれの体験に合わせ、あたかも謎解きでもするかのようにあれこれと想像しながら解釈に解釈を重ね続けています。それぞれにとっての曲なのでしょう。新鮮さの原点を垣間見るようです。歌詞をチェックしましょう。読者の皆さんはどう解釈しますか?

1967年のシングル盤レコードは1番目と2番目のみ収録、実は3番目と4番目も

1967年当時のシングル盤レコードは4分程度しか収録できなかったので、上記の1番と2番で終わっていますが、実は、3番と4番があり、特別ライブなどで全部歌うことがあるようです。ここではレコーディングされている前半部分だけに焦点を当てます。ちなみに残りの部分は更に難解です。(*4)

サビ(hook)の部分はチョーサーのCanterbury Talesの影響


タイトルの “A Whiter Shade of Pale”は、歌詞の“And so it was that later”(そしてそれからそんなに時間が経ち)で始まるサビ(hook)の一部“Turned a whiter shade of pale”(じゃおが青白くなった)から取っています。“As the miller told his tale”(粉ひきが自の話をするにつれ)が示唆するように、これは中世英語を代表する大作であるGeoffrey Chaucer(1340-1400)のThe Canterbury Talesの一話“The Miller's Tale”がほのめかされています。以下のサイトに現代英語訳付きのテキストがあります。この曲のmoodを理解する手がかりになるでしょう。

Chauser詩集

Chaucer: The Miller’s Prologue and Tale – An Interliner Translationこの話の帰結部分に“pale and wan”(青白いそして弱弱しい)とあり、それをもじっているものと思われます。"3828That yet aswowne lay, bothe pale and wan, Who yet lay in a swoon, both pale and wan,"

Chaucerの“The Miller's Tale”は、Oxfordに住む大工、妻、間借人の天文学者、妻に一方的な恋を寄せる教会のclerkが繰り広げる顛末です。大工は裕福ではあるが無教養で若く美しい妻に夢中です。しかし妻は天文学者に思いを寄せ、夫の目を盗んで密会しようと試みます。密会には成功するものの、横槍を入れた教会のclerkをも騙そうとしたが、逆襲され、密会目的で作った大仕掛けが崩れ、顔を青くして(pale and wan)倒れてしまいます。登場人物全員が良からぬ考えを持ち、それに端を発した珍事が起こって町の笑い草になるという話です。

この曲のサビ(hook)は、 そしてそのくらいの間をおいてから“And it was that later”→“The Miller's Tale”におけるThe miller が話すにつれ“As the miller told his tale”(The miller=多分、僕“I”)→最初幽霊のような彼女の顔はwhiter shade of pale更に青白くになった“That her face at first ghostly turned a whiter shade of pale”という意味でしょう。歌のサビ(“hook”)は、“high point”または“climax”とも言われ、歌全体のムードの鍵を握っているので、この曲全体のムードは、サビに示唆されている“The Miller's Tale”に象徴されていると感じます。筆者個人の解釈です。

BBCでも取り上げられた出だしの“We skipped the light fandango”は17世紀詩人ミルトンのL'Allegro (1632)から?


歌詞の最初に戻ります。“We skipped the light fandango”(僕らは二人は軽くファンダンゴをスキップして踊った)ということでしょうが、多くのイギリス人にも、ファンダンゴfandangoが二人の男女がぴったり寄り添って踊るスペイン発祥のダンスであることは分かっても、"the light fandango"が何かは不明のようです。(*5)

BBC News|UK|Magazine の“What is the light fandango?”と称するサイトは、(*6)このverseは17世紀英詩人John MiltonのL'Allegro (1632)にある以下の件をもじったものであると説明しています。(*7)

"Com, and trip it as ye go, (さ、行くときにはスキップするように)
On the light fantastick toe."(そのファンタスティクなつま先で)

Milton詩集


BBC Newsが英国人に対して説明をしているわけですから、この曲の歌詞がいかに難解であるかが察せられますね。

“Turn the cartwheel across the floor”(フロアー中を側転して)から“When we called out for another drink”(もう一杯注文したら)までは、フロアーを側転して、そこに流れる大音量の音楽、囃し立てながらみる観客の声援などなどのアミューズメント・パークで見かけるシーンを思い浮かばせます。

でも、その直後のverse“And the waiter brought a tray”(ウエイターはトレイをもってきた)があまりにも唐突で状況把握を難しくさせています。ウエイターが、頼んだdrinkを盆に乗せて持ってきたのか、もう閉店時間が過ぎておりテーブルの上のものを片付けるために盆を持ってきたのか、それなら“and”ではなく“but”を使うのではと思いますが、定かではありません。それから上記のサビのラインに繋がっていくのですが、サビの最初の“And it was that later”の“that later”は、飲み物を頼んでからウエイターが来るまでかなり時間が経ったものと想像できます。違うかもしれません。

その後に続く、不穏な表現が散りばめられたverse“her face, at first, just ghostly, turned a whiter shade of pale”(最初幽霊のような彼女の顔は青白くなった)、から、男女の仲はあまり上手くいっておらず、女性の方が男性を捨て去ろうとしているものと想像できます。


(2/2)に続く


(*1)1967年に結成された英国のロックグループです。詳細はProcol Harum Wikipediaなどをみてください。現在も活躍しています。

(*2)クラシックのオーケストラと共演するにはそれなりの背景があります。この曲のハモンドオルガンで演奏されるメロディーが、バッハ(John Sebastian Bach)の管弦楽第3番組曲(Orchestra Suite No.3 BWV1068 Air on the G string)に似ていると指摘されています。“Bach, A Whiter Shade of Pale”が2つを比較しています。メロディーの著作権をめぐりハモンドオルガン奏者が訴訟を起こしたのをきっかけに、このことが取りざたされました。最近和解が成立したようですが、このライブ演奏はそうした騒ぎをよそに音楽にジャンルを超えた繋がりがあることを感じさせてくれます。

(*3)実際にはさらに複雑です。関心ある読者は、(*2)に掲げた論文や『言語とコミュニケーションの諸相』(2000年 鈴木佑治 創英社三省堂 Amazon)で、メッセージがどのように解釈されるかにより、相互理解と誤解が生まれますが、その視点から、「日米の政治言説と誤解のメカニズム」(『現代日本のコミュニケーション環境』1999 鈴木佑治ほか 大修館書店の第4章)コミュニケーション・メカニズムを探りました。

(*4)3番と4番の歌詞

(*5)The Cambridge English Dictionary

(*6)“What is the light fandango?”

(*7)John Milton (1608-1674) 代表作は叙事詩Paradise Lostで、John BunyanのThe Pilgrim's Progressと並びピューリタン文学の傑作と言われています。


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鈴木佑治
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