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映画「五つの銅貨」主題歌“The Five Pennies”...子役Susan Gordonさんを偲んで(2/3)

「”五つの銅貨”主題歌“The Five Pennies”...子役Susan Gordonさんを偲んで」(1/3)の続き(2/3)です。


The Five Pennies 歌詞の解説


ストーリーを念頭に入れてlyricを見てみましょう。まず、語句、表現、構文(*3)について簡単に解説します。キー・ワードのpenny(複数形pennies)ですが、アメリカでは1 cent銅貨の俗称です。金融、株式などの正式な場ではcentが使われます。イギリスの銅貨pennyを模した言い方ですが、イギリスではその複数形はpenceまたはpenniesで、前者は全銅貨の価値(5 pence = 5ペンスの価値)、後者は銅貨の数(5 pennies = 5枚の1ペニー銅貨)という意味です。

アメリカでもイギリスでもpennyは一番価値が少ない貨幣であることから、「取るに足らない」「つまらない」という含みで使われています。“The Five Pennies”も5つの取るに足らない銅貨という意味を含んでいます。
また、アメリカには、“Find a penny, pick it up, and all day long you'll have good luck.”「朝玄関を出て“a penny”を見つけて拾えば一日中luckyになる」という言い伝えがあります。取るに足らない5つの penniesは、5つの幸運を運び、これら5枚を持てばa millionaireのようなリッチな気分になる、そんな意味でしょう。

5つのpenniesの最初は to wish onのpennyです。1940年のDisneyアニメ映画“Pinocchio”の主題歌に“When You Wish Upon a Star”「星に願いを」というのがあります。この曲のwish upon(またはon)は、熟語で「~に願いをかける」という意味で、この場合のupon(またはon)は前置詞です。このDisneyの曲は大ヒットしたので、それに引っ張られたとしたら、“The Five Pennies”のwish onも同じ意味で解釈できます。そうであるならuponの方が良さそうですが、後続のdream onと韻を踏ませるためにuponではなくonを使ったと解釈できるでしょう。

しかしながら、後続との関係を考慮すると、単なる韻合わせではない別の解釈が浮かんできます。後続のdream on, laugh on, love onとonにおけるonは、Cambridge Dictionaryにあるように、

Used to show that an action or event continues.”(例: Our old traditions live on.)

前置詞ではなく、出来事や動作の継続を示す副詞です。すなわち、dream onは「夢を見続ける」、laugh onは「笑い続ける」、love onは「愛し続ける」という意味です。従って、wish onは「願い続ける」という意味でしょう。このonはよく使われます(Life still goes on)、特にon and onで終わりがないほど続くことを示します(*4)(He spoke on and on.)。

次に、この歌で4回繰り返されるThis(little)penny is to-infinitive、すなわち、be + to-infinitive構文について一言。A Handbook of English Grammar Seventh Edition(1975. R. W. Zandvort. Longman)(*5)から代表的な例を拾って見ました。

We are to be married next week.(Arrangement)
I suppose I am to be home before ten?(Command)
The worst is still to come.(Destiny)

それぞれ「予定・計画」、「義務・命令」、「予想・予言・運命」を示しています。しかしどれもこの歌の意味とはやや外れます。Zandvortは、次のような熟語的な用法も挙げています。

No one was to blame.(=blameworthy/悪い)
Is this house to let?(= for hire/貸し出し用)
Accuracy is far to seek.(=lacking/欠けている)

2番目の例文(Is this house to let?)が、この歌で4回繰り返されるbe + to-infinitiveに一番近い気がします。Zandvortは、概して、be + to-infinitiveは不定詞の目的を表す副詞的用法に似ているとも述べていますが、それにも呼応します。

This little penny is to wish on.../to dream on../to laugh on../to love on.. は、この小さなペニーは願い続ける/夢を見続ける/笑い続ける/愛し続けるためのペニーと解釈できます。アメリカのハンバーガー・チェーンで、店員が“Two regular burgers are to go.”または短縮形の“Two regular burgers to go.”(レギュラーバーガー、持ち帰り!)などと言いますが、それとほぼ同じ用法です。

この歌が伝える思い


映画のストーリーに戻りましょう。Nichols家は経済的にも苦しみ、幼い娘さんが病気になるなど、大変な状態ですが、そうした中でも希望を失いません。お父さんは娘さんを寝付かせるとき、子守唄としてこの歌を歌い続けます。娘さんは小児麻痺で自由に踊ることはできませんが、this little pennyはテーブルの上において指で弾くと光り輝き(glitter, glow)(*6)、口笛のように明るく(bright as a whistle)、軽く (light as a thistle)(*7)、そして素早い(quick as a wink)キラキラつま先で(upon its twinkling toes)ぐるぐると踊ります。願い続ければ(wish on)、夢見続ければ(dream on)、踊れば(dance)、笑い続ければ(laugh on)、そして、愛し続ければ(love on)、きっと良いことがあるよ、そんな思いを込めて歌っています。


The Five Pennies

この映画には他に、“Lullaby in Ragtime”、“Good Night Sleep Tight”という子守唄も使われています。上記の二つ目の動画では、子役のSusan Gordonが“The Five Pennies”を、父親役のDanny Kayeが“Lullaby in Ragtime”を、Red Nocholsの友人として友情出演するLouis Armstrongが“Good Night Sleep Tight”を絡めて歌っています。これらも有名な曲です。併せて聞いてみてください。

Dany Kaye -Lullaby in Ragtime /Good Night Sleep Tight(*8)

筆者が、実際に映画“The Five Pennies”を見たのは、1962年、大学1年生の時でしたが、高校生の頃からこの主題歌をラジオで何度も聞き、以来、大好きな曲の一つです。

(3/3)に続く


(*2)Jazz曲の多くは映画やBroadwayなどのミュージカルの主題曲です。有名な“As Time Goes By”は“Casablanca”の主題歌です。この映画も世界中で流行り、筆者自身、曲はもちろんのこと肝心なシーンの台詞を覚えてしまいました。

(*3)この歌詞にも重要な英語構文が多く含まれています。自然に無理なく、楽しく覚えられます。しかも無料です。

(*4)関連して、「止めどもなく話す」という意味の熟語keep on(例He kept on two hours.)やkeep on ~ing(例He kept on singing.)のonもあります。

(*5)初版は1957年です。元々はオランダ人学生の為に書かれた英文法参考書(reference grammar)です。現代言語学の記述文法(descriptive grammar)でなはく伝統的な文法(traditional grammar)に近い文法書ですが、信頼性は高く簡潔でコンパクトにまとめられています。

(*6)英語でglで始まる語は(淡い)光と関する語が多いです。例、glint, glim, glimmer, glimpse, glisten, glitter, gloom, glow, etc. また、gloryも光と関係しますね。

(*7)アザミthistleは軽さに例えられます(as light as thistle)。Scotlandではこの花はOrder of Thistleという最高の勲章にも使用されているようです。

(*8)Lyric for “Lullaby in Ragtime. Lyric for “Good Night Sleep Tight”.日本では2曲とも小椋佳さんがカバーしています。小椋さんは、筆者と同じく1944年生まれですから、高校生時代にこの映画と主題歌を耳にされたのではないでしょうか。

For Lifelong English 生涯英語活動のススメ (鈴木佑治 WebSite)


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鈴木佑治
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