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精神科夜間救急① ~女子高生が悩んだ理由~

今回は私が30代の頃に看護師として務めさせて頂いた精神科病院でのお話し。なので、十数年前の古いお話しになります。

その病院は、「精神科救急」と言う外来をされておりまして、他の病院や救急隊、警察等と連携して夜間に急変した精神科の患者さんを診察するのですが…
私が夜間救急の外来担当だったその夜、病院に夜間の急患が来たんです。

精神科の救急なんて、あんまり想像出来ませんよね?上記の本、「精神科ER」がわかりやすくて私のお勧めです!また興味があれば、一度読んでみてください。

で、その夜の患者さんは女子高生だったのですが、「希死念慮(死にたい気持ち)が強い」とのことで、別の病院から紹介されて、自家用車でお母さんが連れて来られたのですが、お母さんが、執拗に入院を要求するのです。

当直医師は、まだ高校生で未成熟でもある彼女のことを考え、明日の朝直ぐに、思春期の患者受け入れ病棟がある別の病院に行けるように、紹介状を書こうとしますが、お母さんは「今夜、自宅に連れて帰って何かあったら先生の責任ですからね!」と譲りません。
大人の精神病棟に入院するって、子供にはやっぱり衝撃的な記憶になりますからね💦
何で?って、そりゃ薬局以外から買ったお薬が止められない人とかも、治療されている訳ですから…

私は何してるか?ですか?そのお母さんと当直医師の大声のやり取りを、診察室前の待合いの廊下で、その女子高生の子と聞いてました💧

「精神科の看護師は、何もしなくて、楽でいーなー」とか言わないでくださいよ。患者さんの傍から離れた数分が危険だったりするんですよ💦
私自身、この病院の別の日の夜間救急で、「ちょっとトイレに…」と言われ、目を離した隙に、ベルトだか?ネクタイ👔だかで縊首(首吊り)をされそうになった経験がありますからね💦

で、その女子高生。ぽっりぽっりと話し始めます。

女子高生、「私、仲間外れにされて、イジメられてる…頑張って入った高校だったのに…」

私、「僕も頑張って入った高校でイジメられたよ。」

女子高生、「え!看護師さんも?」

私、「君はまだ幸せだよ、選択肢があるから。」

女子高生、「選択肢なんて無い!頑張って入った高校だったから…」

私、「たぶん、その高校に入るのに皆、頑張ってるよ。で、入ったあと、君はコケたんだな、きっと…。大切なのは、今から立ち上がって、最終的に君がどうなりたいか?じゃないかな?」

女子高生、「良い大学に行きたい…」

私、「だから高校が辞めれない?」

女子高生、「そう…」

私、「今のままなら、(大学)難しくない?」

女子高生、「…………。」

私、「学校に行くも地獄、辞めるも地獄。なら、僕は迷わず辞めるね!辞めれなくて、嫌々高校に行って、結局大学に行けなかった(と、思っている)から。今は昔と違って、単位制高校もあって、逃げ道と言うか、攻め口を変えることが出来る!最終的に良い大学に進むことが目標なら、道を変えて進むのは悪い選択肢じゃないよ?結果で見返してやれる可能性もある。」

女子高生、「私、辞めてもいいの?看護師さんが私ならどうする?」

私、「君はもう十分に頑張った。この病院に夜間救急で来るってレベルは、実は生きるか死ぬか?のレベルだからね。まさに今、君は人生最悪の底を打ったと思うよ。僕の出来なかった、単位だけ頂いて今の高校を辞めて、別の高校から行きたい大学に入ってやるもよし!いつでも辞めてやるって気持ちで、周りの人間なんか気にせず、一人淡々と今の学校に通うも良しだよ!人生そんな奴らに関わったら負け!」

女子高生、「何か楽になった…」

私、「もう入院は必要ない?」

女子高生、「大丈夫!」

まさに私たちの話しが終わったその時、診察室の二人の話しも終わったようで、扉を開けるなり、当直医師が「病棟に入院の連絡してくれるか?」とやや不満げに言いました。

間髪入れずに彼女は、「もう大丈夫です!帰ります!」と、まるで別人のような力強さで言いました。

当直医師とお母さんは、キョトン?としていました。

その後、当直医師は子供を専門に診察できる別の精神科病院に、明日にでも受診できるように、紹介状を書き、その子はその夜、入院することなく、病院をあとにしました。

敗者のように母親に寄り添われて入って来た病院の夜間出入り口を、彼女は勝者のように背筋を伸ばして出て行きました。

その後は、しつこい位に低い声で、「何があったんや?」と聞いてくる当直医師に、「世間話ししかしてないです。」とひたすら返答しましたが、「あんたの仕事をしてたんや!」と言ってやりたい気分でした!

まあ、何てことは無いんです。実は凝り固まった思考を一旦吹っ飛ばして白紙化して、別のやり方を提案しただけなんです。もちろん、ポイントは同じ体験を共有した人間が言ってくれた!ってところでしょうか?

別にテクニックとして、やった訳違いますよ!単純にバカバカしいじゃないですか?多数で少数を叩くのって、いや少数ですらない、一人を!だから、バカ共に関わる必要が無いことを「彼女に伝えたかった」、ただそれだけ。

私?私は高校の三年間しっかりお付き合いしてあげましたよ。

で、得たものですか?何も無かったですよ。

だから、「イジメとの戦いはムダ」って力強く人(他人)に言えるんです。「逃げろ!」って言えるんです。

本当に戦う方が良い時は、きっとありますよ。そういう時に頑張りましょうよ。

そしたら、夜の病院の廊下で、力強く女子高生に、何かを熱く語ることができる?そんな日が来るかも、しれませんから☺