世界中へSDGsを浸透させた、2人のクリエイターを知っているか?
2015年に採択されたSDGsへの取り組みが、ここまで世界中に広がった背景に、2人のクリエイターの存在がいたことをご存知だろうか。
昨今、SDGsへの取り組みは、各企業にとって必要不可欠になっていることは周知の事実です。反面、SDGsへの取り組みが思うように進まないと耳にすることもあります。電通マクロミルインサイトの「第5回 SDGsに関する生活者調査(2022.04)」によると、就業者のうち、自社のSDGsに関する取り組みを認知している人は33.6%と、まだまだ各社の活動は十分とは言えない状況です。そこで、なぜSDGsの認知がこれほどまでに世界に浸透したのかを改めて知ることで、2030年の活動ゴールに向けて取り組みのヒントになればと思っています。
SDGsを加速させた2人のクリエイター
はじめに。SDGsが採択された2015年以前に取り組まれていた国連の活動MDGs(Millennium Development Goals)を知っている人は少ないのではないでしょうか。MDGsの詳細をここでは触れませんが、SDGsとの社会への浸透度の違いは明らかです。2001年〜2015年まで、15年間取り組まれたMDGsが国連や政府が取組主体だったのに対し、SDGsは国や自治体だけではなく民間企業や個人も取組主体としている前提の違いはあります。
では、なぜSDGsが民間企業や個人を取り組み主体として浸透したのか、
その背景に2人のクリエイターの存在がありました。
ひとりは、脚本家・映画監督でもあるリチャード・カーティス氏。
そしてもうひとり、クリエイティブディレクターのヤーコブ・トロールバック氏です。
”7 days to 7 billion (7日間で70億人)”Project
MDGsを知らなかったリチャードカーティスは、SDGsの浸透を加速させるために、「国連が目標を達成するためには、全ての人がその目標を認識する必要がある」と考えNPO法人Project Everyoneを立ち上げ、7日間の間に70億人にSDGsのことを知ってもらうプロジェクトに取り組みました。
「週末の派手な映画の公開時のように街中にポスターを貼り、ラジオやTV、SNSを使って。」
リチャードカーティスの呼びかけに、世界各国のメディア企業125社が賛同。英ロンドンのピカデリーサーカスや、米ニューヨークのタイムズスクエアなど、世界28カ国・地域450都市の14万6000カ所にあるデジタルスクリーンが無償提供されました。
以降、リチャードカーティス率いるProject Everyoneや国連は、様々な映像を通してSDGsの浸透に寄与しました。
そして2020年国連創設75周年に、リチャードカーティス制作総指揮のもと作成された『NATIONS UNITED ともにこの危機に立ち向かう』は他に類をみないドキュメンタリーフィルムとなりました。
31:14〜グラミー賞アーティスト、ビヨンセが国連で見せるパフォーマンスは圧巻なのでぜひご覧ください。映像美やエンターテイメントが、ソーシャルコミュニケーションにおいて果たすインパクトの大きさを感じます。
70億人に伝えるためのコミュニケーション
SDGsの浸透を加速させたもう一人のクリエイター、ヤーコブ・トロールベックは国連から渡されたSDGsの資料を見て、難解な言葉が箇条書きで羅列されていて、何が大事なのか、何が目標なのかわからなかったと言います。
リチャードカーティス同様、国連の目標を達成するためには、世界70億人に目標を認識してもらう必要があると考え、コミュニケーション設計に取り組みました。
まず取り組んだのは、難解な言葉をシンプルにし、世界中の人が理解しやすくなる言葉の整理でした。国連が定めた17の目標を「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」など、人々が行動に移しやすようシンプルな言葉に書き換えました。
次に、取り組んだ言葉のビジュアル化は、もう既に世界中の誰もが目にしている17ゴールのアイコン化です。
また、Sustainable Development Goals や頭文字「SDGs」のままでは理解が浸透しないとの判断から「Global Goals」というワードを旗印にします。
日本では浸透していませんが、アメリカをはじめ海外では「SDGs」と検索すると、「The Global Goals」サイトが上位表示されます。
そして、「The Global Goals」サイトを運営しているのが、リチャードカーティス率いるProject Everyoneです。
ヤコーブ・トロールベックは現在、ニューヨークのクリエイティブスタジオに加えて、スウェーデンのストックホルムのザ・ニュー・ディヴィジョン社でサステイナビリティー・コミュニケーションに特化した活動も行なっています。
国連初のコミュニケーションデザイン。
2人のクリエイターが早くから参画したSDGSは、国連初のコミュニケーションデザインが取り入れられたと言われています。「ノッティングヒルの恋人」も「ラブ・アクチュアリー」も大好きな筆者にとって、ラブ・コメディが得意な脚本家・映画監督のリチャードカーティスがSDGs浸透の影の立役者だったことを知った時は嬉しかったし、納得しました。
難しい言葉や正論を並べるだけでは、人は動かない。人が動くには共感が必要で、共感の裏には物語がある。とりわけSDGsで必要な物語は未来です。
Global Goalsの2030年まで時間は迫ってきましたが、クリエイティブやクリエイターの力を利用して物語を創造し、共感を生むSDGsの活動に取り組む企業が増えることを願います。