Netflix「地面師たち」に学ぶブランドパーソナリティー
ある作品と共通点がある
話題沸騰中のNetflix「地面師たち」。最後の事件で、入金先の小切手が一瞬映りますが、そこには「スバル銀行」と記載されています。
同じ名前の銀行が、ある邦画の名作でも使われていました。1987年公開の伊丹十三監督作品「マルサの女」です。(※同作では、ひらがなのすばる銀行)
「マルサの女」は、国税局査察部(通称・マルサ)に勤める女性の活躍をコミカルに描いたサスペンスドラマ。
よくある銀行の名前、と言われたらそれまでですが、偶然の一致ではないのでは?と考え、「地面師たち」を手がけた大根仁監督のインタビューを読んでみました。
大根監督が言うように、両作品とも〝ノウハウもの〟〝対立構造〟ではありますが、筆者はもう一つの共通点を発見しました。それは、ありきたりな勧善懲悪の物語にはない、登場人物と観客の特殊な関係です。
登場人物と観客の特殊な関係
この解説には、伊丹監督の言葉を借りる必要があります。少し長いですが非常に重要なので引用します。
つまり、「マルサの女」では観客の胸の内に以下のような感情が渦巻き、同じ現象が「地面師たち」でも起きているといえます。
「マルサの女」
●本来、観客は税金を取られたくない。
●でも、脱税している登場人物には共感できない(暴力団も絡んでいるから共感したくない)。
●一方、マルサの女は愛すべき人物で、綿密な捜査の裏側も描かれる。
→結果的に観客は、体制側のマルサに共感し応援してしまう。
「地面師たち」
●本来、視聴者は詐欺被害に遭いたくない。
●でも、大手デベロッパーの登場人物には共感できない(ブラック企業的にも描かれ、共感したくない)。
●一方、地面師グループには個性的に人物が集まり、詐欺の綿密な準備が描かれる。
→結果的に視聴者は、犯罪者にもかかわらず地面師に共感し応援してしまう。
愛されキャラの条件とは
では、なぜ観客は自分と無縁の登場人物に、思いもよらぬ共感をしてしまうのでしょう。「マルサの女」の主演・宮本信子さんは次のように語ります。
これらの言葉から、観客の共感を得るためキャラクターづくりを模索し、魅力が伝わるシーンを盛り込んでていたことがわかります。
「地面師たち」でも、丁々発止の会話劇を繰り広げるピエール瀧さんと小池栄子さん、ゆるい空気感を醸し出す綾野剛さんと染谷将太さん、ユーモラスな存在感の芸人アントニーさん、残虐でありながらどこか知的な雰囲気の豊川悦司さんなど、スリリングな物語とは対照的で、犯罪者らしからぬ人物像が、視聴者の心をつかんだともいえます。
また、地面師たちへの共感を増幅させるためか、騙されるデベロッパー側を決してステレオタイプに〝可哀想な被害者〟と描いていない点にも注目です。悪に共感させるには、もっと別の悪が必要なのかもしれません。
登場人物への共感が重要なのは両作品だけでなく、すべての作品が同じです。もしウルトラマンが3分以上活動できたら。もしアンパンマンが顔が欠けても強いままだったら。そんな弱点のない無敵のヒーローは、今のように愛されているでしょうか。「自分と同じように弱点がある」と感じるから、観客は共感すると推察します。
ブランディングへの活用法
いよいよ本題ですが、ここまでの話はブランディングに活用できます。ブランドを人にたとえるとどんな人かを表す概念、ブランドパーソナリティーに生かせるのです。
【ブランドパーソナリティーの一般的な例】
●スターバックス ・フレンドリー ・都会派 ・知的
●無印良品 ・現実的 ・シンプル好き ・職人気質
● ハーレーダビットソン ・野性的 ・男性的 ・独立心がある
これらは主に「ディメンションフレームワーク」や「アーキタイプフレームワーク」といった手法で導き出せますが、導き出した人格が、聞こえの良いものばかりになったら要注意です。
マルサの女は、敏腕だけど寝癖があるから好感が持てた。地面師たちも、犯罪者集団だけど、計画が順調に進まず泥臭くあがいているから、視聴者は釘づけになった。
そう仮定すると、ターゲットの共感につながる、ある種の〝人間臭さ〟がブランドパーソナリティーにはあってしかるべきです。
具体的にはこのように。
●(こだわりが強い)だけど(気取らず気さく)
●(常に洗練されている)時々(お茶目になる)
●(チャーミング)じつは(頑固な一面もある)
ターゲットのパーソナリティーに近いブランドパーソナリティーは、身近に感じさせるだけでなく、個性を際立たせ、差別化を図る意味でも有効といえるでしょう。
さらに、SNSや撮影のメイキングシーンなどを通して、そうしたブランドの多面性を発信することも重要です。
もしもドラマや映画で魅力的な登場人物がいたら、そのキャラクターにブランドパーソナリティーのヒントがあるかもしれません。
This is New Perspective
愛されキャラには何か一つ弱点がある。
ブランドパーソナリティーにも「スキ」や「ギャップ」を作ることで、ターゲットとの距離を縮められる。
Photo Netflix/毎日新聞ひとシネマ/CINEMORE/映画ナタリー/映画.com
© Ko shinjo/Shueisha