ヘブライズムと機械論的世界観(1)
ヘレニズムの特徴が善優位の思想であることに対して、ヘブライズムの特徴は存在優位の思想であると説明しました。
その存在優位の思想から派生する二つの要素が機械論的世界観と超越論的世界観です。しばらくは機械論的世界観についてお話しします。
機械論的世界観を一言で定義するならば、「自然をありのままに没価値的に観察する」ということです。「ありのままに」と「没価値的」が重要です。存在優位の世界観が反映しています。「没価値的」からは、自然を目的論的世界観から解放されることが見て取れます。
これは物理学の発展に大きく寄与しました。中世まではアリストテレスの自然学に制約されて天動説が主流でしたが、存在優位の思想が徐々に後押しして「自然をありのままに没価値的に観察する」という思想態度が芽生えました。
一般的には、目的論的世界観に従って自然を観察していた暗黒の中世と、機械論的世界観に従って自然を科学的に観察した輝かしい近世以降の間の断絶を強調する学説が多いです。
しかし、善優位と存在優位という概念で俯瞰した哲学史の観点からすると、中世と近世の間の断絶よりも、ヘレニズムが哲学史において力を持った古代と、ヘブライズムが力を持つ中世以後の断絶の方が大きいです。
つまり理性の背後にある「宗教」による断絶の方が大きいということです。次回からその点について順を追って見ていくことにします。