SaaSにおけるCSの前提を疑ってみる
※この記事はXからの転載です
いままでいくつかのSaaSの企業にいろいろなポジションで携わってきたわけですが、CSのポジションって特殊だなと常々感じています。 というのも、企業によって「CS」が意味する領域も異なるがゆえに、職種の定義がしにくいし、企業によっては明確な目標も置きにくいように見えます。ただ不思議と、どのSaaSの企業でもCSというポジションはあります。
とはいいつつも、一般的な役割たちはこんなん
ふむ。 上記の通り、企業によって領域と役割は異なるものの、CSと聞いてパッとイメージするのは、こんな役割ではないでしょうか?
顧客の教育とオンボーディング
顧客のニーズとフィードバックの収集、改善の推進
継続的なサポートと問題解決
顧客の維持と成長
たぶん他にも違う役割を持たせている企業はあるとは思いますが、上記の分類でも大きくは外してないはずです。 ビジネス観点で言えば、顧客とのタッチポイントを作っておくことでチャーンレートを低くして、LTVをあげることがCSの役割、もしくはサービス改善のフィードバックを早く回収してサービスの質を上げることが役割だとも言えます。 サービス提供側の会社のミッションの観点で言えば、サービスの世界観を正しくクライアントに伝えて、ミッションの達成を導く役割と言えるかもしれません。 どちらにせよ、大きな役目を持っていることが多いでしょう。
ただ、そもそもこれらってどこまで各企業で真剣に考えられていることなのでしょうか。 多くの会社で、SaaSというビジネスモデルにおいて、あたりまえにCSが必要だとされているので、CSの部署を用意はしているという状態なのでは、とちょっと疑っています。"どう考えても絶対的に必要だから"CSを用意している会社って実は少ないのではと。 いくつかの観点で最近思うことがあったので、ダダダっと書いてみます。
※繰り返しになりますが、これは思考実験みたいなもので、CSを批判するものではないです。そして、僕の経験と想像に大きく偏っています。
①「こうやってこう使えば正解です!」がない領域でビジネスしているだけでは?
世の中が複雑化していくなかで、ビジネスにおいて本当に大きなペインを解決するサービスは少なくなってきているような気がします。どんどんとペインが細分化されていっており、そのなかの一部を解決するようなサービスだったり、いままで顕在化していなかった領域に位置しているサービスが増えているのではないでしょうか。
それ自体は悪いとも思わないですし、僕も普段使っているサービスを考えても全てが絶対に必要というわけでもないので、「このサービスが何を解決しているのか?」は実は本質ではないのかもしれません。
ただ、CSがクライアントにサービスの使い方をちゃんと説明しないと、顧客に使われないサービスというのはたくさんあります。そして、クライアントだけでは会社のなかでどう活用していいかわからないサービスって、実はサービス自体の使われ方が定まっていないだけなのでは、と思うこともあります。 明確な目的があり、それに対しての明確な使い方が顧客が理解でき、それを担当者で推進できる状態になっていれば、そこまでCSが介入することはないのかもしれません。
サービス開発の根本のところで、社会の何を解決したいのかがふわふわしていると、CSというタッチポイントを使いながら、ごまかしつつ人力で、サービスを継続してもらうために実質コンサルしている感じになっちゃう気がするんですよね。 もちろん、どの会社も同じ課題があるわけではないので、ある程度カスタマイズした使われ方があって然るべきだとも思いますが、CSに頼りすぎている場合、それってサービス設計側に問題があるのではないのかな、と思うこともあります。
②それってソフトウェアサービスのユーザビリティ/UXの問題じゃないです?
前述したことと被りますが、顧客が「どうやって使えばいいかわからない」ってなる状態って、そもそもソフトウェアサービス側のユーザビリティ/UXの問題なんじゃないか、って思うこともないです?(あれ、ない??)
使用目的が明確で、担当者が何をするべきかも明確で、サービスが直感的に使えた場合、CSが本当に必要な場面ってだいぶ減らせると思うんですよね。これらがちょっとずつ決まっていなかったり、欠陥があったりすると、その抜けている部分を、CSのポジションが埋めることになります。割とここの部分に時間をかけてしまっているCSも多いのかな、と思っています。何度も同じこと聞かれるなー、でもしょうがないなー、とか。
また、「このサービスは使い始めはこのように使ってみよう」みたいなオンボーディングプロセスが決まっているのであれば、サービス側にできるだけ組み込むこともできると思うんですよね。 何言ってんだ! そんなんサービス側に組み込んだところでその通り使われないんだから、CSからのオンボーディングが絶対必要なんだよ! っていう意見もあるとは思いますが、そこを努力しようとしないのは、ユーザビリティ/UXを諦めているというか・・・。またユーザー側に「ちゃんと使おう」というモチベーションがない場合、それはそれでペインに刺さりきっていないサービスなのかもしれません。
まあ、とにかく何がいいたいかというと、CSがいるからたまたまおおごとになっていない課題、みたいなところに気づかずに、サービスのユーザビリティ/UXの磨き込みを怠っているケースはあるんじゃないかな、と思うのです。
③CSのポジションが実はSaaSのビジネス構造を壊していることはないか?
新しくビジネスを立ち上げる際に、解決したい課題を考えて、その手段がSaaSだった……ということもあるかとは思うのですが、肌感として多くのSaaSビジネスが、SaaSビジネスを立ち上げる前提で作られていると思います。
売上をあげる際の人的リソースへの依存度が、他のビジネスと比べて低いのがSaaSビジネスのいいところのひとつです。ただ、①②のような状態になっているSaaSの場合、結局CSがコンサルティングサービスを提供するようなことになってしまい、導入社数を増やすためにはCSをその分増やす必要がある、という状態になります。
そして①の問題があるSaaSの場合、顧客によって使われ方やでてくる要望が大きく違ったりもして。ただ、顧客接点を厚く持っている分、CSがそれを内部に意見として持ってくることも多くなり、ビジネス側としては「なるほど!確かにその機能実装すれば、そのユースケースのクライアントは増えるかもね!」なんて考えてしまい、サービスの機能が多くなって結果的に②の問題が生まれる、みたいなこと、結構あるんじゃないですかね……?
CSがいることに甘えてしまい、CSを投下し続けることで①や②の問題に目を瞑りながら売上を伸ばしちゃうケースってありうると思うんです。これって一番最初のビジネス立ち上げのところまで立ち戻ると、「あれ?SaaSやりたかったのに、実質コンサルみたいだな?」みたいになっちゃいそうというか。なんというか。
いや、もちろんコンサルに価値はあると思っています。し、そこに喜んで費用を払うクライアントもいると思いますが、それってビジネスとしては想定していた流れ・お金の回収の方法なんでしたっけ、みたいな部分への問いです。
④そんな状態でサービスに依存させるのは、クライアントのためになっているのだろうか?
これは最後ですが。 前述の通り、多くのCSはチャーンレートを下げて、LTVをあげたいと思っているはずです。ただ①-③のような構造になっていながらLTVをあげたいと考えた場合、どうにかクライアントの普段の業務に活用してもらうために、あの手この手で多少無理やりなことを提案したり、その動きに対して伴走したりすることになります。 その結果、クライアントとしては本質的に課題は解決できていない・サービスはちょっと使いにくい・サービスじゃなくコンサルにお金を払っている、みたいな状態になるのに、サービス自体は業務に入り込んでしまっているため、気軽にチャーンはできない、みたいなことになりえます。
これって実はクライアントをサービスに依存させてしまっていることで、自己解決力を下げているんじゃないかな、って思うんです。みなさんも業務で使うシステムで「めっちゃ使いにくいし解約したいんだけど、もう業務に入り込んじゃってるしな……」みたいなやつ、あるはずです。 それはサービス提供側のビジネスからしたら成功なのかもしれないですけど、それって本当にクライアントのためになっているんだっけ? という観点から考えると、むーんんという感じがします。 サービス提供側も一歩引いて状況を見てみたときに「あれ、サービス提供によって、こんなことしたかったんだっけ?」ってなりえるというか。
ふー、なんだか長くなってしまいました。。
いろいろ書いたものの、前述の通り、社会が複雑化していくなかでサービスを提供するだけで、誰かの課題を解決するのは難しくなってきているのかもしれません。 ただ、CSありきでビジネスモデルを構築するのか(構築しようと思っていたのか)、それともなんとなく流れでCSという部署を作っているのか、によって大きく考え方が違うのかなと思って、ちょっと頭の中のごにょごにょをアウトプットしてみました。
というか、もしかしたら将来のSaaSにおいて、CSは実はコンサル屋さんです! という答えなのかもしれないけれど……。
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