Living In A Rainbow
私の小さな友達アリーヤ(10歳)のママは、コロナの影響で3月に失業してしまった。
ママは貯金が底をつき、家賃やローンが支払えず、生活が成り立たなくなった、と相談してくれた。
家賃いらないよ、ローンも立て替えるし、ご飯も毎食一緒に食べよう、と、迷わずNidoでサポートさせてもらうことにした。
でも、仕事も収入も貯金もないわけで、コロナ氏は一向に収まる気配がない。どこにも出かけられなければ、何も買えないような生活が、一体いつまで続くのか。
先が見えない不安と心配からか、春くらいから少しずつママの心の浮き沈みが激しくなっていった。
人を罵声したり、血だらけになるまで自分の頭を壁に叩きつけたり、夜中に大声の熱唱が1時間続いたり、でも本人は何も覚えてなかったり…。
育児や家事をすることがかなり困難に見えた。
ママと病院に行き、相談を重ね、アリーヤは6月から私とアリフの3人で暮らすことになった。
アリーヤはこれまで学校に行ったことがない。
本来なら5年生(来月11歳)。
時計や曜日が分からず、文字の読み書き・足し算引き算は一切できなかった。まぁ出来なくたって別にいいんだけど、でも出来て損はないよねと、7月は毎日一緒に勉強した。
少ーしずつアルファベットを覚え、カレンダーや時間を理解し、ちょっぴり自信がついたように見えた。
文字が分かるようになり、ご近所みーんなのお誕生日を楽しそうに聞いてまわり、誇らしげにカレンダーに記入してた。
みんなの名前を書くのはまだ難しくて、最初の頭文字だけ書くもんだから、カレンダー上には「A」や「D」がいっぱいで、一体いつが誰の誕生日なのか私にはよく分からなかったけど、笑。
でも、「あと何回寝たら○のお誕生日だ!」「△時になったら〜する時間だね」と、毎日嬉しそうに教えてくれた。
そんなアリーヤの文字や数字の練習の場になればと、少しでもみんなが前向きになれたり楽しい気持ちが広がればと、8月は小さなドーナツ屋さんを始めた。
毎朝ドーナツが揚がる匂いに子ども達が行列をつくり(リーダーはアリフw)、みんなが「1個食べたいなぁ」な顔をするもんだから、毎日何十個のドーナツがあっさりなくなり、週の半分以上は店すら開けられず。
言うまでもなく、完全赤字でドーナツ屋さんは即倒産、笑!
でも、みんなでドーナツを作るのも、食べるのも、とにかく楽しくて楽しくて、この夏は本当に飽きもせずドーナツを作りまくった。
「うわぁ、自分でお菓子作るなんて初めて!」と言ってたアリーヤは、すっかりドーナツ作り名人になった。
9月頃からは、みんなで何をしたいかを話し合い、一緒にあれこれ企画するようになった。
まぁ企画と言ったって、決して大きなイベントなんかじゃなく、逆立ち競争とかバトミントン大会とか、本当に「普通の毎日」だったんだけど。
みんなが念願のピクニック企画した日なんて、家の目の前(徒歩30秒)の原っぱにシートひいて、焼きトウモロコシ&ゆで卵を食べただけだったんだけど。
でも、それでも、「これがピクニックってやつかぁ。楽しいねぇ」「ピクニック企画して大正解だったね」なんてキャッキャッ喜ぶ天使たち。
BBQにスイカ割り、海や山にプールに畑、相撲にマラソン、音楽会に手品大会…。いつだって、何したって、みんな大喜び。
太陽みたいに大きく笑う、まぶしすぎる小さな人たち。
よく遊び、つくり、食べ、「あぁ、今日もいい1日だった!」と、ぐっすり眠る。大好きなみんながいつも側にいて、楽しみな明日がまたやってくる。
幸せってこういうことだよなぁ、と実感してばかりだった。
そんな暮らしもあっという間に半年目。
11月になり、ママの今後や色々な事情を考え、アリーヤはおじいちゃんがいるバンドゥン(バリ島から車で28時間)に引越すことが決まった。
別に一生のお別れじゃない。
28時間離れてようが何だろうが、会おうと思えば必ず会える。
なんだけど、経済的なことや色々を考えると、違う島にいるアリーヤに会いに行くっていうのは、ここではそんなに言うほど簡単なことじゃない。
大人だけでなく、子ども達みんなもそれをよく理解してた。
アリーヤがバンドゥンに帰る日の朝、私はバカみたいに号泣した。教科書のお手本かのように、よく泣いた。
ディカとシーファは、「わはは、Nozomi すげー泣いてる!鼻水すげー!」って指差して笑ったけど、2人は私の比じゃない量の鼻水たらして、わんわん泣いた。
アリーヤは朝から凛としていて、涙1つ流さなかった。
私のことをギューッと抱きしめ、
「私も、大きくなったらNozomi みたいに運動会つくる人になりたい。子どもも大人もみーんなが楽しい顔してて、ママもいっぱい笑ってて、本当に嬉しかった。あんな日、初めてだった」
なんて話してくれた。
ママやみんなの気持ちを考えて、引越が決まって以来ずっと、「バンドゥン帰るの楽しみだなぁ」なんて言ってたアリーヤ。
でも、いざバスが到着したら、「本当は行きたくない」と、大粒の涙をこぼした。
いつだって人の気持ちを最優先で、自分の気持ちは後回しのアリーヤ。何かを「したくない」なんて言うの、初めて聞いたよ。
私は過呼吸になるんじゃないかと思うくらい、また泣いた。
「ここでの毎日、幸せばっかりだった。大きくなったら絶対ここに戻ってくるよ」と、アリーヤは蚊の泣くような小さな小さな声で言い、バスに乗り込んで行ってしまった。
アリーヤがいなくなり、早1週間。
アンドレとファディムが今日も全力で走り回る。めちゃくちゃ楽しそうにしてるくせに、夜になると「アリーヤがいないとつまんねーよ」なんて言う。
本当だよね。
私も、毎日同じベッドで一緒に過ごしてた小さな親友がいなくなり、何だかもぬけの殻になったみたい。
愛情は注いでも注いでも足りないものだ。
アリーヤに対しても、ママに対しても、もっとしてあげられたことはなかったのか、後悔ばかりが膨らんで自分を責める。
アリーヤやママだけでなく、ここには様々な事情を抱えきれなくなってる人達がたくさんいる。
悲しいことも、理不尽なことも、山のようにある。
でも、笑ったり喜んだり、楽しくて心踊ることにフォーカス当てて、目の前の小さな日常にたっぷりのエネルギーと愛を注いでいたいなと思う。
自分の大切な人たちを全力で大切に、愛しい生活を丁寧に積み重ねていたい。
みんなと「今」をきちんと積み重ねて、その積み重ねの上に「これから」がしっかりつながっていくように。
------アリーヤがいない部屋はがらんと広い気がして、静まり返った音にまた泣けてくる。
私はすっかりママになった気でいたけど、何だか私が育てられてばかりの半年間だったなぁ。
これからのアリーヤの人生が、抱えきれないくらいの大きな愛と幸せで満ちあふれますように。
たくさんの優しさに包まれますように。
Aliya, thank you for letting me experience such beautiful days with you. You taught me so much and you will always be in my heart.