改題希望! 邦題が猛烈に紛らわしいトニー・ジャー出演映画を語る
○はじめに
タイ出身のアクション俳優:トニー・ジャー。2003年に主演した「マッハ!」で世界を震撼させた、アクション映画界の名優だ。
今日ではタイ映画に限らず数々のハリウッド映画にも出演し、実写映画版「モンスターハンター」(ミラ・ジョヴォヴィッチとのW主演)や、大御所アクション俳優が集結した「エクスペンダブルズ ニューブラッド」へ参戦するなど、今日もなお活躍の場を広げ続けている。
さて、日本で海外映画が配給される際、微妙な邦題が付いてしまうのは映画ファンの悩みの種である。
主な例としては、「Napoleon Dynamite」が「バス男」(「電車男」に便乗。現在は原題に沿った「ナポレオン・ダイナマイト」と改題済)に、「Idiocracy」が「26世紀青年」(「20世紀少年」に便乗)が有名だろうか。
まだ上記の二作は「バス男」「26世紀青年」というタイトルでも、そこまで違和感を持たなかった内容だった。しかし、「Gravity」が「ゼロ・グラビティ」と、「Guardians of the Galaxy Vol. 2」が「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス」と銘打たれてしまったように、映画の内容とタイトルとの齟齬が発生してしまったケースも存在する。
以下に紹介する例は、上記の二点とはまた少し異なる。
何故かトニー・ジャー主演映画の場合、単に変な邦題ではなく“非常に紛らわしい邦題”が目立ってしまっている。一体何が紛らわしいのか?という具体例については、以下の文をお読み頂きたい。
○「マッハ!無限大」(2013年) 原題:「Tom yum goong 2」
象使いの青年が愛する象を救出するために大暴れする、タイ産の大傑作アクション映画「トム・ヤム・クン!」。驚愕の長回しカチコミアクションシーン、そして象への愛と哀しみに満ちた余韻の残るラストが味わい深い。個人的に、過去鑑賞した格闘アクション映画の中でも屈指の一本と言える。
本作はそんな前作と比べると物足りないが、娯楽アクションとして十分楽しめる映画となっている。何よりタイのアクション王VSタイのアクション女王:トニー・ジャーvsジージャー・ヤーニン(これまた名作「チョコレート・ファイター」等で主演を務めた)を勿体ぶらずに観せてくれるのが嬉しいし、約20分続く逃走シーンも観ていて飽きないアイデアが凝らされており楽しい。ラストの決着のロジックも、主人公が象使いであることが勝利に結びついており見事だ。
……先程「前作」と述べたが、この「前作」は「マッハ!」ではない。重ね重ね説明すると、本作は「マッハ!」シリーズとは完全に無関係な映画だ。それどころか、原題も内容も完全に「Tom yum goong 2」=「トム・ヤム・クン!2」となっている。
「トム・ヤム・クン!2」ってタイトルだと何だかダサくね?「マッハ!」の方がカッコよくね?そんでもって無限大って付ければナンバリング感が薄れて、初見の人でも観てくれるんじゃね?──といった命名会議が行われたのかどうかは定かではないが、この邦題事情を知らない新規鑑賞者にとっては単に紛らわしいだけなので、早急な改題をお願いしたいところだ。
○「ドラゴン×マッハ!」(2015年) 原題:「殺破狼II/SPL 2:A Time for Consequences」
本作はアジアンテイスト炸裂な、超骨太アクション映画である。銃・ナイフ・徒手空拳、どのアクションも一級品。特にトニー氏が見せる“いなし”の体さばきの美しさは芸術的だった。長回しショットの使い方の巧さも褒め称えたいところ。二階からの落下と上昇を一つなぎで見せる撮り方も素敵だった。
なお、監督を務めたソイ・チェンは、現在公開中の「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」のメガホンも取っている。本校執筆時はまだ未見だが、劇場へ足を運び鑑賞する予定だ。
群像劇的な要素を持つ本作は、ラスボスも主人公達と等しく魅力的である。そんなラスボスを演じたのは、「イップ・マン 継承」で敵役を演じ、そのスピンオフ主演作「イップマン外伝 マスターZ」で好演を見せたマックス・チャン。本作は彼の“強さ表現”が上手く、前半の乱闘シーンで驚異的な格闘術を披露することで、格闘の達人である主人公二人が組んでも勝てないんじゃないか...…?と思わせる程の説得力が生まれていた。あんなにパワフルかつイケメンな刑務所長がいるかよ!というツッコミは無粋だろう。
……さて、本作は「マッハ!無限大」同様、「マッハ!」シリーズとの関係は一切無い。それどころか、「SPL/狼よ静かに死ね」(2005年 原題:「殺破狼」。なお、「SPL」とは殺破狼=シャー・ポー・ラン=Sha Po Langの略)の続編である。続編とはいえ内容の連続性は無くスタッフとキャストが共通しているだけではあるが、これは日本に限ったことではなく、本国でもしっかり正式な続編扱いになっているようだ。なおトニー・ジャーは、三作目「SPL 狼たちの処刑台」(2017)にも、本作とは別の役柄で出演している。
何はともあれ、本作も早急な邦題の改題をお願いしたい。一作目が「SPL/狼よ静かに死ね」、二作目が「ドラゴン×マッハ!」、三作目が「SPL 狼たちの処刑台」……では、どう考えても二作目だけが浮きすぎている。
○おわりに
トニー・ジャーの出世作は確かに「マッハ!」だ。とはいえ、むやみやたらと邦題に「マッハ」が付く件には疑問が残る。
アクション俳優:スティーブン・セガールの主演作の邦題が「沈黙の戦艦」以降ひたすら「沈黙の●●」(なお、「沈黙の戦艦」続編の邦題は「暴走特急」)と銘打たれてしまう現象と同じように、“マッハ”という単語がトニー・ジャーの代名詞となってしまっているのだろうか。
これらの紛らわしい邦題の改題、そしてトニー・ジャーの益々の活躍を祈りつつ、筆を擱かせていただきたい。