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「迦陵頻伽(かりょうびんが)の仔は西へ」シリーズ

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アジア紀行ファンタジー小説「迦陵頻伽の仔は西へ」シリーズです。 巨躯の遣唐使と有翼の少女、二人の旅は続く。 【不定期更新中】
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#アジア

「迦陵頻伽の仔と旅人」(四)

 声の主の意思を察するオトの耳に、良嗣は幾度となく救われてきた。犛牛の市価を誤魔化そうと…

のざわあらし
1か月前
19

「迦陵頻伽の仔と旅人」(三)

 父を殺めた双子の兄を探している──。  ドルジェの口から吐蕃語で滔々と述べられた旅の目…

のざわあらし
1か月前
15

「迦陵頻伽の仔と旅人」(二)

 西の彼方に沈み行く夕陽は、高原の空と水面を暖かな橙色に染めている。  湖畔の傍らに組ま…

のざわあらし
2か月前
23

「迦陵頻伽の仔と旅人」(一)

「海?」 「ほら、しょっちゅう経文に出てくるだろ、法華経の中。『或漂流巨海』だの『梵音海…

のざわあらし
3か月前
28

「迦陵頻伽の仔と墓標」

 黒羽を翻す禿鷲が、曇天を切り裂いて大地に舞い降りた。その光景に相対する時、高原を征く旅…

のざわあらし
5か月前
35

「迦陵頻伽の仔の憧憬」

 闇に包まれた石窟の奥で二柱の燭台に炎が灯されると、上品下生印を結んだ仏像──阿弥陀如来…

のざわあらし
8か月前
31

「迦陵頻伽の仔は西へ【完全版】」 #パルプアドベントカレンダー2023

 入唐後の二年半で良嗣が集めた衆目は数知れない。外套で覆われた七尺半の巨躯もさる事ながら、左肩に同じ出立ちの少女を乗せ帯同しているのだから、目立つのも無理はない。人里離れた砂漠を征く今でさえ、彼方から四人分の視線を向けられている程だ。  纏わり付く人目も顧みず、二人は熱砂の丘陵を進む。その行く手を阻むかのように、ふと乾いた向風が吹いた。一本結びの良嗣の長髪と、額まで下ろしたオトの垂髪に、巻き上げられた砂が絡み付く。たまらずオトが頭を振り乱すと、濡羽色の髪と無数の砂粒が、汗ばん