「迦陵頻伽の仔は西へ【完全版】」 #パルプアドベントカレンダー2023
入唐後の二年半で良嗣が集めた衆目は数知れない。外套で覆われた七尺半の巨躯もさる事ながら、左肩に同じ出立ちの少女を乗せ帯同しているのだから、目立つのも無理はない。人里離れた砂漠を征く今でさえ、彼方から四人分の視線を向けられている程だ。
纏わり付く人目も顧みず、二人は熱砂の丘陵を進む。その行く手を阻むかのように、ふと乾いた向風が吹いた。一本結びの良嗣の長髪と、額まで下ろしたオトの垂髪に、巻き上げられた砂が絡み付く。たまらずオトが頭を振り乱すと、濡羽色の髪と無数の砂粒が、汗ばん