「迦陵頻伽(かりょうびんが)の仔は西へ」
身の丈七尺の大柄。左肩の上には塵避けの外套を纏った少女。入唐後の二年半で良嗣が集めた衆目は数知れず、今も四人の男の視線を浴びている。
左肩でオトが呟いた。
「別に辞めなくたって」
二人は商隊と共に砂漠を征き、西域を目指していた。昨晩オトの寝具を捲った商人に、良嗣が鉄拳を振るうまでは。
「奴らは信用できん」
「割符はどうすんの」
陽関の関所を通る術が無ければ、敦煌からの──否、海をも越えた旅路が水泡に帰す。状況は深刻だった。
口論が白熱する最中、遂に視線の主達は姿