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「迦陵頻伽(かりょうびんが)の仔は西へ」シリーズ

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アジア紀行ファンタジー小説「迦陵頻伽の仔は西へ」シリーズです。 巨躯の遣唐使と有翼の少女、二人の旅は続く。 【不定期更新中】
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記事一覧

「迦陵頻伽の仔と旅人」(三)

 父を殺めた双子の兄を探している──。  ドルジェの口から吐蕃語で滔々と述べられた旅の目…

10

「迦陵頻伽の仔と旅人」(二)

 西の彼方に沈み行く夕陽は、高原の空と水面を暖かな橙色に染めている。  湖畔の傍らに組ま…

のざわあらし
3週間前
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「迦陵頻伽の仔と旅人」(一)

「海?」 「ほら、しょっちゅう経文に出てくるだろ、法華経の中。『或漂流巨海』だの『梵音海…

のざわあらし
1か月前
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「迦陵頻伽の仔と墓標」

 黒羽を翻す禿鷲が、曇天を切り裂いて大地に舞い降りた。その光景に相対する時、高原を征く旅…

のざわあらし
4か月前
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「迦陵頻伽の仔の憧憬」

 闇に包まれた石窟の奥で二柱の燭台に炎が灯されると、上品下生印を結んだ仏像──阿弥陀如来…

のざわあらし
6か月前
30

「迦陵頻伽の仔は西へ【完全版】」 #パルプアドベントカレンダー2023

 入唐後の二年半で良嗣が集めた衆目は数知れない。外套で覆われた七尺半の巨躯もさる事ながら…

のざわあらし
9か月前
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「迦陵頻伽(かりょうびんが)の仔は西へ」

 身の丈七尺の大柄。左肩の上には塵避けの外套を纏った少女。入唐後の二年半で良嗣が集めた衆目は数知れず、今も四人の男の視線を浴びている。  左肩でオトが呟いた。 「別に辞めなくたって」  二人は商隊と共に砂漠を征き、西域を目指していた。昨晩オトの寝具を捲った商人に、良嗣が鉄拳を振るうまでは。 「奴らは信用できん」 「割符はどうすんの」  陽関の関所を通る術が無ければ、敦煌からの──否、海をも越えた旅路が水泡に帰す。状況は深刻だった。  口論が白熱する最中、遂に視線の主達は姿