魚市場/自作小説

自作の小説を記事にしてます。 SFとミステリー、ホラーが好きです。宜しくお願いします。短編が多めです。 ↓カクヨムもやってます https://kakuyomu.jp/users/uo1chiba

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最近の記事

【自作ショートショート⑤】渚にて

渚にて お盆の時期には毎年、妻の地元の海岸で夕暮れの散歩をすることが恒例となっている。 私は夏が大好きだ。 風が、ささやかな歌を奏でている。その旋律に耳を傾けながら歩く。ふと空を見た。 今にも泣き出しそうな気配がして、名残惜しい気持ちになりながらも、 そろそろ渚に別れを告げることにした。 僕たちは、急ぎ足で海岸を後にする。 「渚ちゃん、大きくなったね」 ぐずり出した空をあやしながら、妻の夏が言った。 「風の方が大きいもん」 「風くんも空くんも、すぐに大きくなるよ」 私が

    • 【自作ショートショート④】その名が世界を変えた──ブランドとネーミングの力

      その名が世界を変えた──ブランドとネーミングの力 名前とは、一見するとただの符号に過ぎないかもしれない。けれども、一度世に送り出されるや否や、その製品の運命を左右する決定的な要素となり得る。私たちは、無意識のうちにその名前に感情を重ねたり、親しみを感じたり、時には抵抗を覚えたりするのだ。 思い浮かべてほしい。「iPod」がもし「Sound Square」と名付けられていたらどうだろう?スタイリッシュな未来感が少し曖昧になり、なんとなく平凡な電子機器の一つに埋もれてしまうかも

      • 【自作ホラー小説②】深夜タクシー

        深夜タクシー 1 喫煙所 昔、山本先輩からこんな話を聞いた事がある。 「運転の仕事をやってるとな、だいたい一回は必ず変なもんを見ることになる。言っとくが、酔っ払いの客とか、いちゃもんつけてくるヤクザなんかじゃねぇぞ」 山本先輩はくすくす笑いながら煙草の火を指先で弾いて消し、肩をすくめて私を睨んだ。 「これだよ、これ」 そう言って、両の手を宙に浮かべ、やおらお化けのポーズをとってみせた。「最近では、勤務外でも変な目にあったってやつもいるからな。お前も気をつけろよ」
 山本先

        • 【自作ショートショート③】はんにんは・・・

          はんにんは・・・ 犯人は私 のことを殺す しかないだろう、あなた は手詰まりで はない、最後 は気付けるはず 真実に

          【自作推理小説①】世界の終わりとハードボイルド探偵

          世界の終わりとハードボイルド探偵 1938年 10月28日、ニューヨーク 午前10時、部屋の中には鋭い緊張感が漂っていた。中央には大柄な男が立っている。その存在感は、まるで空気を押しつぶすかのようで、そこにいる誰もが言葉を飲み込んだ。照明の下で影を落とすそのシルエットが不思議なほど劇的で、何かが始まる予感だけがあった。  男は深呼吸し、手にした紙束に目を落とした。赤インクの修正跡が幾重にも残るその原稿には、彼自身の苦心がにじんでいる。 「みんな、準備はいいか?これは練習だ

          【自作推理小説①】世界の終わりとハードボイルド探偵

          【自作ホラー小説①】彁彁彁彁

          彁彁彁彁 例の家について苦情の電話があったのは、まだ残暑の厳しい九月の終わりのことだった。 《○○区 ○○の○○さんのお宅なんだけど、なんとかしてくれない?》 区役所職員である私と、先輩の山岸さんはさっそく問題の屋敷を訪れることになった。
もやっとした熱気の中で私たちはその住所を辿っていったが、着いた先にはどこか空気が淀み、ただならぬ雰囲気が漂っていた。蒸し暑さとは違う、まるで湿った影のような暗さがそこに染み付いているかのようだった。 「これはまた…」 山岸さんが絶句

          【自作ホラー小説①】彁彁彁彁

          【自作ショートショート②】伊藤を待ちながら

          伊藤を待ちながら 一本道に広葉樹が立っている。 その木の前で男達が、話し合っている。 齋藤「もう行こうぜ」 高橋「だめだよ」 斎藤「いや、もう行くぞ」 高橋「お前までそんな事言うのか。絶対にだめだ」 齊藤「…なぜ?」 高橋「伊藤を待つんだ」 齋藤「どうせ伊藤は俺達との予定なんて忘れてるぜ」 高橋「あと5分だけ」 斎藤「お前、5分前も同じ事言ってたぞ」 高橋「伊藤に限って約束を忘れるなんて」 齊藤「…だけど、実際問題来ないけど?」 斎藤「飲み屋だって予約してるんだから、もう

          【自作ショートショート②】伊藤を待ちながら

          【自作ショートショート①】ナイフを持った男

          ナイフを持った男 「それで、どうなんだ?」 彼の右手に持っていたナイフがぎらりと光った。 「ところで、君の肉は本当に美味しそうだな」 そう言うと彼は肩のスジにナイフを押し当てた。私は緊張で思わず唾を飲み込んだ。気がつくと手の震えが止まらなくなっていた。 「あの、その…」 うまく言葉が出なかった。 「宜しくお願いします!」 勇気を出して言った。 「本当かい? 嬉しいな、ありがとう!」 ウェイターが、ステーキにピッタリのワインを持ってきた。 「聞いてくれ、僕たち夫婦になるんだ!

          【自作ショートショート①】ナイフを持った男

          【自作ホームズ・パスティーシュ②】だらしない感じの中年女性の依頼

          — だらしない感じの中年女性の依頼 —     シャーロック・ホームズが、あのだらしのない感じの中年女性の依頼を受けたのは、一八八一年の春のことであり、私の手帳にはその記録が残っている。今思い返せば、それは、私がホームズと出会ってからまだ日が浅い頃のことだった。当時、私は軍医としての任務を終え、ロンドンのベーカー街に落ち着いたばかりで、ホームズという風変わりな人物に対する興味が次第に深まっていた時期だった。彼の驚異的な観察眼と推理力に、私はしばしば舌を巻いたものだ。  あの

          【自作ホームズ・パスティーシュ②】だらしない感じの中年女性の依頼

          【自作ホームズ・パスティーシュ①】ジェームズ・フィリモア氏の失踪

          — ジェームズ・フィリモア氏の失踪 —     私たちが関わった事件は非常に多いので、手記にまとめるものを選択するのは容易ではない。あまり知られてはいないが、ロンドンを震撼させた『ホワイトチャペル地区連続殺人事件』や、今も謎が多い『黄金の秘密結社事件』にも彼は関わっていた。これらの事件については詳細が長くなるので、いつか語るべき時が来たら発表しようと思う。それにしても、シャーロック・ホームズが関わった事件の中でも、あの夜の事件は特に奇妙な事件だったと言えるだろう。 霧の立

          【自作ホームズ・パスティーシュ①】ジェームズ・フィリモア氏の失踪