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石井ゆかり「星占い的思考 58 男もすなる」 (『群像 2025年1月号)/ドナルド・キーン『百代の過客 日記にみる日本人(上・下)』

☆mediopos3671(2024.12.7.)

『群像』で連載の石井ゆかり「星占い的思考」
2025年月号のお題は「男もすなる」

「男もすなる日記といふものを」
という土佐日記からとられてるように
「日記」の話からはじまっている

個人的にいえば日記をつけたことはなく
日々の記録の類もほとんど残したことのないような
筆無精かつものぐさの典型でもあるのだが

今回とりあげられている
ドナルド・キーン『百代の過客』をはじめ
日記や日記について書かれてある文章は
興味深く読んでいたりする

紹介されている引用は
『百代の過客』でキーンがとりあげている
川路聖謨の「長崎日記」から

「嘉永五年(一八五二)、
川路聖謨(としあきら)は勘定奉行に任ぜられ、
合わせて海防係を仰せつか」り
翌嘉永六年長崎へ派遣され
ロシア使節プチャーチンと交渉を行う

石井ゆかりは「引用元の、川路聖謨の日記を読み解く
キーンの一文を読んで、めまいのような妙な感覚に襲われ」る

「初めて西洋文化に触れた日本人の体験を、
アメリカ人のキーンが読んで、英語で書いたものを、
さらに日本語に翻訳された文章を、日本人の私が読んでいる」
というような
「ピンポン球のように何かがあっちに行き、
こっちに行きしている」ような感覚である

石井ゆかりがそうした「ピンポン状態」を感じ
キーンの『百代の過客』から上記の例をとりあげたのは
「本稿を書いている現在、
アメリカ大統領選の直後だから」だという

そのとき日本のメディアは衆議院議員選挙以上に
「連日メジャーリーグと大統領選のことばかり、
つまりアメリカの話ばかりしていた」が
メディアの予想が大きく外れた後
「みんな当事者で、みんなが偏っている」
そんな「ピンポン状態」と同じような状態になっていた
先日の兵庫県知事選も同様な状態である

さて「天空では、先月に引き続き水星が射手座に、
木星が双子座に位置している」

「2星座が水星逆行によって強調され続ける今、
日本人はアメリカのことを気にし続けているし、
大統領選でもガザやウクライナの紛争、移民問題、関税など、
双子座−射手座ラインのテーマにスポットライトが当たり続け」

「さらに一つの国の中でも、地域によって全く世界が違うことを
改めて目の当たりにさせられ」ている

しかも「距離や立場を超えてコミュニケーションを図れば図るほど、
わかろうとすればするほど、
「あなたにはわからない」といわれることになる」・・・

ここからは石井ゆかりの示唆の範囲からは
外れることになるのだが

こうしたコミュニケーション状況は
象徴としての量子力学的な観測者問題とも
関係しているように思われる

現実は観測者が観測したことで現れるが
観測者が観測しないものは現実として現れ得ない

違ったものとして観測されているとき
互いに「あなたにはわからない」
そう言い続けるしかなくなる

たとえば学校やメディアなどで
教えられたものを教えられたとおりに
観測することで現実をつくりだしているとき
教えられたことだけを現実としているかぎり
そうでないものは現実として現れ得なくなるように・・・

■石井ゆかり「星占い的思考 58 男もすなる」
 (『群像』2025年1月号)
■ドナルド・キーン(金関寿夫訳)
 『百代の過客 日記にみる日本人(上・下)』
 (朝日選書259/260 朝日新聞社 1984/7・8)

**(石井ゆかり「星占い的思考 58 男もすなる」より)

*「〝不馴れな料理を食べたり、珍しい食器を用いるのに苦労した、とは全く言っていない。ナプキンの使い方も理解出来たようである。「ふろしきのごときものを銘々へわたし候て、食べこぼしたる時の為、膝かけとす(手をもふき、口をもふく也。はなもふくなるべし)〟
 (ドナルド・キーン著 金関寿夫訳 『百代の過客』講談社学術文庫)

 江戸幕府の海防掛に任ぜられた川路聖謨は1853年、長崎で初めて「ロシア人」に出会った。ロシアからの使節プチャーチンと、国交にまつわる交渉に臨んだのだ。ロシア人の真意を疑い、警戒をおこたらなかったが、時間をかけて対話を重ね、相手を理解しようとし、ついには女がらみの冗談で笑い合うまでになった。こうしたことを、彼は日記に書きのこした。
 
*「ドナルド・キーン『百代の過客』は、古来日本人が書き綴ってきた日記文学を紐解いた一冊である。「土佐日記」「蜻蛉日記」「紫式部日記」に始まり、日本人の多くが日記を残した。それらには文学的な価値が認められていた。キーンが日本人の日記に興味を持ったのは、太平洋戦争で戦地に残された日本兵の日記を翻訳する、という仕事がきっかけだった。あくまで軍事的な情報収集のための仕事だったが、彼はその内容に深く心を動かされた。アメリカ軍では、兵士たちは日記をつけることを禁じられていたという。情報漏洩を防ぐためだが、そもそも日記をつける習慣がある者がほとんどいなかったので、誰もそれを問題にしなかった。一方の日本軍では、兵士たちは年初に、日記帳を支給されていた。日記をつけることを奨励されていたのだ。」

*「私は引用元の、川路聖謨の日記を読み解くキーンの一文を読んで、めまいのような妙な感覚に襲われた。というのも、キーンはアメリカ人である。初めて西洋文化に触れた日本人の体験を、アメリカ人のキーンが読んで、英語で書いたものを、さらに日本語に翻訳された文章を、日本人の私が読んでいるのである。ピンポン球のように何かがあっちに行き、こっちに行きしている。たとえばキーンは欧米人として、川路の日記には「ないふ、ほーくなるものの扱いに困った」と書いてあるはずだ、と予測しただろう。しかし、違った。ナプキンの定義も正確そのものだ。それがキーンにとっては、軽い驚きなのである。その驚きを、英語圏の人々に向けて「ちょっと驚くよね!」的に語りかけている。それを日本人である私が、面白く読んでいる。」

*「今回、なぜこの一文を取り上げたかというと、私が本稿を書いている現在、アメリカ大統領選の直後だからである。過去数週間、日本のメディアは自国の総選挙以上に大統領選を熱く取り上げ、連日メジャーリーグと大統領選のことばかり、つまりアメリカの話ばかりしていた。「ハリス優勢」が内外のメディアで報じられ、多くの人が民主党の大統領が続くだろうと想定していたが、いざ蓋を開けてみたらひっくり返った。驚きと失望のコメントが渦巻く中、今メディアは「ハリス惨敗、トランプ勝利の原因は」と盛んに「分析」している。しかしそれらは、日本から見た日本人の考えであったり、海外メディアが報じる内容の要約、抜粋を翻訳したものだったり、日本にいるアメリカ人が日本人向けに語る話であったり、アメリカ在住の日本人から日本人が聞き取った話だったりする。先の「ピンポン状態」と同じなのだ。みんな当事者で、みんなが偏っている。アメリカの選挙民とて、いろんな人がいて、いろんな立場がある。この「いろんな」の多様さは、日本に生まれ育ってそのまま住んでいる私の想像を、遙かに凌駕している。」

*「折しも天空では、先月に引き続き水星が射手座に、木星が双子座に位置している。これらの要素は全て、旅やコミュニケーション、ビジネス、「海外」と関係がある。たとえば冥王星が射手座にいた時代、射手座はいつもグルーバリズムと結びつけて語られた。2星座が水星逆行によって強調され続ける今、日本人はアメリカのことを気にし続けているし、大統領選でもガザやウクライナの紛争、移民問題、関税など、双子座−射手座ラインのテーマにスポットライトが当たり続けていた。さらに一つの国の中でも、地域によって全く世界が違うことを改めて目の当たりにさせられた。交通機関が発達し、人間はかつてより自由に移動できる。コミュニケーション手段が発達し、物理的距離を超えてコンタクトできる。しかし、一方に別の現実がある。思えば東日本大震災の直後、東京から大阪に出張しただけで、街の空気が全く異なることに驚かされた。距離や立場を超えてコミュニケーションを図れば図るほど、わかろうとすればするほど、「あなたにはわからない」といわれることになる。少なくとも「あなたにはわからない」ということだけは「あなたにわかってもらえるだろう」と思ってもらえるからなのかもしれない。」

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