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ショートストーリー

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歌をイメージしたオリジナルショートストーリー
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記事一覧

地上の星

地上の星



*本作は中島みゆきさんの「地上の星」をイメージしたオリジナルショートストーリーです。歌詞とは一切関係ありません。

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サンは貧しい村に生まれた。学校にも行けず、生活用の水を汲みに毎日遠い湖まで何往復も歩かなければならない。太陽がカンカンに照りつけようと、突然のスコールに遭おうとサンが水汲みに行かなければ家族は死んでしまうのだ。
あるとき、サンが父親にこう言った。

「おと

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償い

償い

*本作は、さだまさしさんの「償い」をイメージしたオリジナルショートストーリーです。歌詞とは一切関係ありません。

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あなたへ

今年もあなたが好きだったクチナシが甘い香りをのせて真っ白な花を咲かせました。
はじめて八重咲きのクチナシの花を見たとき「綺麗」と言った私に「綺麗だけど僕は一重咲きの可憐さの方が好きだよ」と言って微笑んでましたね。
あなたのそんな穏やかな陽だまりのよう

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少年時代

少年時代



本作は井上陽水さんの「少年時代」をイメージしたオリジナルショートストーリーです。歌詞とは一切関係ありません。

♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

俺が空き巣で身を立てるようになって5年。足を洗おうと毎回思うが、じゃ明日っから飯はどうすんだ⁈といつも内なる声に負けちまう。
さてと… 今日の家はここだ。蜩が鳴きだす前にさっさと片付けちまおう。古い屋根つきの門扉を開けたとき中から声がした。マズい。すると

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最高の片思い

最高の片思い



♢♢♢♢♢

その日は翌週のバンドコンテストの打ち合わせでみんなスタジオに集まっていた。出場バンドが多数ガヤガヤとひしめき合っていて、その喧騒がまた楽しかった。
そんな中、見覚えのある顔が遅れて入ってきた。

「コウちゃん⁈」

私の心臓が一気に32ビートを刻む。

「うわぁ!久しぶり!おぉスゲーじゃん!!」

コウちゃんが変わらない陽だまりの笑顔で私に向かってそう言った。
私はうなずく。平静

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銀の雨

銀の雨



*本作は松山千春さんの「銀の雨」をイメージしたオリジナルショートストーリーです。歌詞とは一切関係ありません。

♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

好きなだけじゃどうしようもないことがあるってこと、あなたと出逢って初めて知った。
ゆるやかに穏やかに過ぎていた平らな時間。

通り過ぎてみればあれが幸せということだったのね。あなたとの想い出が記された日記は、今はまだ苦しくて読み返せそうにもないけど、いつか懐か

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Wine & Roses

Wine & Roses



本作はRED WARRIORSの「Wine&Roses」をイメージしたオリジナルショートストーリーです。歌詞とは一切関係ありません。また本作は過去作「SOMEDAY」の続編として書いたものです。そちらにもお立ち寄りいただけたらこの上なく幸せです。

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サラとつきあい出してから、俺は懸命に働いた。仲間は人が変わった俺をみて笑った。でもそんなのどうでも良かった。

今日はサラ

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時代おくれ

時代おくれ



*本作は河島英五さんの「時代おくれ」をイメージしたオリジナルショートストーリーです。歌詞とは一切関係ありません。

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「あら、純ちゃんいらっしゃい」今年、還暦を迎えた麗子ママの甲高い声が響く。
僕はカウンターの一番奥の席を眺めながらママの斜向かいに座る。

「今日はいないの?」

「あぁ、健さんね… 出稼ぎ先変わったって、つい3日前に顔見せてったわよ 」

そうか… じゃ

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MY WAY

MY WAY



本作はMr.Frank Sinatraの「MY WAY」をイメージしたオリジナルショートストーリーです。歌詞とは一切関係ありません。

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さあ、船出のときだ。
振り返れば、辛く悲しい日々すらもすべてが今この時の満ち足りた時間に繋がっている。
なんて幸せな私の人生。

どうかこの旅立ちを悲しまないでほしい。
そして君自身の一度しかない人生をどうか力強く歩んでいってほしい。

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未来予想図II



本作はDREAMS COME TRUEの「未来予想図II」をイメージしたオリジナルショートストーリーです。歌詞とは一切関係ありません。

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たまった写真を整理していたら、久しぶり。あなたとのピンナップショット。
屈託のない笑顔の2人。何もかも光り輝いていた。

1年め、バイクにタンデムで海岸線を月の光に照らされながら走った。よく笑って、よく泣いたあの頃。

3年め、サンル

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Pretender

Pretender



*本作はOfficial髭男dismの「Pretender」をイメージしたオリジナルショートストーリーです。歌詞とは一切関係ありません。

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後ろ髪を引かれるって意味はもちろん知ってたけど、いまいちピンと来なかった。

でも… やっと… 分かった。気がする。

好きになった人が必ず自分を好きになってくれるって世界があったら僕は絶対その世界に… いや、行かないな。
好きだ!

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ラストショー

ラストショー



本作は浜田省吾さんの「ラストショー」をイメージしたオリジナルショートストーリーです。歌詞とは一切関係ありません。

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ギアをニュートラルに入れたまま、俺は思い切りアクセルペダルを踏み込んだ。俺の心の叫びを代弁しているかのようにマフラーが唸りを上げる。〈俺たちは一体何に負けたんだ?〉

輝きが徐々に失われていき、少しずつ二人の道が逸れていく。気づいても、もう戻れない。二人の

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蕾



*本作はコブクロさんの「蕾」をイメージしたオリジナルショートストーリーです。歌詞とは一切関係ありません。

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駅までの道すがら、舗道脇に咲く花たちの誰に見られずとも淡々と生命を全うしていく姿は、毎日平静を装いながらあくせくと生き急ぐ自分と重なる。

希望をいっぱいに抱えもうじき花開く蕾。
あたたかい陽の光や雨の恵み、やさしくそよぐ風の恩恵を受けながらその時を待つ。
当たり

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夢一夜



*本作は南こうせつさんの「夢一夜」をイメージしたオリジナルショートストーリーです。歌詞とは一切関係ありません。

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「いとさん、おはようおかえりやす」番頭の声に見送られ扉口を出た途端、春子は小走りで待合へと急ぐ。

もうじきあの方に逢える。その恋しさと裏腹に逢瀬のあとの喪失感は日を追って増すばかりで、ともするとその想いに飲み込まれそうになる。

道ならぬ恋の代償を負えるほ

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サクセス

サクセス



*本作はダウン・タウン・ブギウギ・バンドのサクセスをイメージしたオリジナルショートすちストーリーです。歌詞とは一切関係ありません。

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ブラインドは全開。太陽の光を部屋いっぱいに取り込んだのは、耳元からうなじを通る電流のような、あなたのそのひと言を身体の芯で受け止めたかったから。

ここまで来たらサクセス。

ブラインドを半分閉じたのは、縞模様の光の中に溶け込みそうなあな

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