夢一夜
*本作は南こうせつさんの「夢一夜」をイメージしたオリジナルショートストーリーです。歌詞とは一切関係ありません。
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「いとさん、おはようおかえりやす」番頭の声に見送られ扉口を出た途端、春子は小走りで待合へと急ぐ。
もうじきあの方に逢える。その恋しさと裏腹に逢瀬のあとの喪失感は日を追って増すばかりで、ともするとその想いに飲み込まれそうになる。
道ならぬ恋の代償を負えるほど春子の心は成熟しておらず、愛しさと虚しさを行ったりきたりする日々がますます春子を美しく変えていった。
間もなくの婚礼のために誂えた着物を幾重にも脱ぎ散らかし、やっとの思いで選んだ桃花文様の単衣もとうに似合わない気がして口唇を噛みしめる。
梅雨明けも間近の半夏生。小走りの白肌に薄っすらと滲む汗が、まるで朝露を浴びたホウセンカのようで、愛らしさと艶めきを放っていた。
夢一夜儚きおもい宙に舞い三界輪廻終わりなき咎
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